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マビノギ-Generation 0- 序章03 第三話


          3


 鉱山と鍛冶の町、バンホールはエイリフ王国の統治下でウルラ大陸の南端に位置する。

 一時は地下資源採掘の中心地として繁栄していたものの、その後の採掘場――現在のバリダンジョンである――からのポウォールの出現、度重なる災害に見舞われた今は寂びれた村という印象が拭えない。若者たちのほとんどが都会を求めて出て行ってしまっているせいでもあるだろう。

 もっとも、当時は廃鉱の案すらあったほどなのだから、住民たちにしてみればそうならなかっただけでも僥倖なのかもしれなかった。
 今日もバンホールでは水力の素たる水車が勢いよく飛沫をたてている。


 そんな音を窓越しに感じながら、彼は対面にたつ少女を見やった。
 エリネと名乗った少女は艶やかなストレートの黒髪を今は両肩のあたりで緩くしばっており、勝気な紅玉の瞳を向けてきている。

 こじんまりとした宿場の一室にはおよそ似つかわしくない美少女だったが、そのアンバランスさが逆に彼の緊張をわずかにほぐしていた。

 それは不思議な感覚だった。

「もしもそうするつもりなら――殺すわよ」

 と、エリネがにっこりと笑っていう。

 不思議な感覚だった。
 話の内容が実に物騒なだけに、どこか落ち着いている自分が、意外だったのだ。

「つまり……今日のことは口外するなってことですよ、ね?」

 腕を組んで剣呑な視線をなげかけてくるエリネに、おずおずと質問を返す。

「ええ、そういうことよ。仮にも私の従者が、見習いとはいえ聖騎士団員を殺そうとした――なんて、冗談でも報告されるわけにはいかないの」

 従者。
 アリアというあの金毛の少女のことだ。

「彼女は大丈夫なんですか……?」

 火焔弾〈ファイア・ボルト〉。扱いやすい、下級の初歩的な魔法とはいえ、直撃を受ければただでは済まない。

 あれから意識を失ったアリアを担いで、彼はエリネとともにダンジョンを脱出することに成功していた。もっとも、エリネとしてはその結果が業腹だったらしく、不機嫌な視線がそのことを顕著に物語っている。

「平気よ。あの子はあのくらいじゃ死なないから」

 意識を取り戻さないまま別室で休んでいる彼女のことが気がかりではあったが、エリネは一顧だにしなかった。

「それに――こういうことでもないと、あの子は眠れないしね」

「え?」

「なんでもないわ。それよりさっきのこと約束できる? できないなら悪いけどあなたを殺すしかない。本当はこんなこと言っている時点で私もヤバイんだけど。今は余計なことにとられている時間はないの。あの子の力もまだ必要だしね」

「えと、キミたちはどういう……」

「約束、できるの? できないの?」

 視線を険しくする少女に、

「し、します……しますから」

 ぼそぼそと返事をすると、

「声が小さい!」

 と、腰に手を当てて怒られたので、

「はい! 約束します!」

 彼は年下の少女に、まるで昔からされているかのように説教をうけた。

 曰く、男らしくない。
 曰く、年上の威厳が感じられない。

 最後にはそもそもなんで敬語で話すのよといちゃもんをつけられて、

「このへたれ!」

 と断じられた。

 それは彼にとって、やはり懐かしい感覚だった。

 幼き頃から、真向かいの家に住む少女に同様に怒られたことを思い出す。彼女はどうしているだろうか。立派な聖騎士になって帰るといったけれど、未だにうだつのあがらないこんな男をはたして待っていてくれるのだろうか。

 目の前でいまだに「計算が狂った。あの子が起きるまで動けなくなったじゃない」とブツブツ不満を挙げている少女ほど美しくはなかったけれど、素朴で家庭的であたたかな、幼なじみがとても懐かしい。

「……なに笑ってんのよ」

 しらず、笑みを浮かべていたらしい。
 エリネは薄気味わるそうに眉をあげていた。

「あ、いや……」

 どうにも、放っておけない。

 彼はそんなことを思う。
 見栄っ張りで弱虫で、おまけに強くもないけれど。

 眼前の少女が、意中の相手と重なって見えて、カッコつけたくなってしまった。

「よかったら、力にならせてもらえない……かな。迷惑をかけたお詫びに」

 一瞬敬語になりそうになったのをこらえて、彼は自分になにができるのかすらよく考えずにそう告げた。

 だが。

「あ、それはいいから。あなたはただ、黙っててくれれば」

 ぴっと手を突き出されて却下された。

「で、でも。なにか困ってるみたいだし……僕だって一応その剣くらいは使えるし」

 しどろもどろになりながら話す彼を、エリネは一瞬だけみつめてすぐに視線をはずした。

「あなた、ポウォールを斬ったことないでしょ」

「そ、そんなことは…………!」

「目をみればわかるわ。きっと生来そういうことができない性格なんでしょうね」

 幼なじみにも同じ事を言われた。

 それが悔しくて、彼女を守れる力がないと言われているようで情けなくて、聖騎士〈パラディン〉養成所に入った。
 だが、その結果はエリネの言葉どおり、向かないことをこのうえなく思い知らされてしまった。

「別にバカにしているわけじゃないわ。きっと、あなたは優しい人間なのよ。私は甘ったれって思うけどね」

 そんな、幼なじみと同じことばかり言わないでほしい。
 俯いた彼に、エリネは言葉を続ける。

「どちらにしても、あなたにアリアの代わりはできない。……違うわね、誰にもあの子の代わりなんてなれないのよ」

「そうかもしれないけどっ! なにかできることがあるかも――」

「ないわ」

 憤る彼に、しかしエリネは淡々と告げる。

「あなたは一週間眠らずに戦える? 昼夜関係なく襲ってくるポウォールを相手に逃げずに立ち向かえる? ゴーレムは? オーガは? あの子はすべてやってのけるわよ」

「……キミたちは、いったい……どういう……」

 アリアという金毛の少女が並外れた力をもっているのは確認するまでもなく彼自身が目の当たりにしたことだ。

 小柄な体躯で不釣合いの長剣を片手で振り回し、重力法則を無視したような動き。洗練された剣撃には一切の容赦も情けもない。

 決して、ただの人間ではありえない――かの伝説の聖騎士であるかのような、驚異的な身体能力。
 だがそれはありえない。

 あの少女の持つ空気は『負』そのものだった。

 聖騎士どころか、まるであれは――――。

「私たちがしているのはそういう戦いなの。巻き込まれればあなた、死ぬわよ」

 思考を遮って、エリネが言う。
 その声音には今までにないわずかな優しさが帯びている気がして、彼の心にさざなみを起こす。

 昨今になってポウォールの活動が激しくなってきているのは知っている。
 だが、エリネの話ではまるで自分たちが狙われているかのような物言いだ。どうすればそんな状況になるのか。いや、そもそも彼女たちは何者なのか。

 次々と沸いてくる疑問に、そしてやはり幼なじみと重なるエリネの表情に、

「……わかった」

 と、彼は答える。

「賢明ね」

 エリネも少しの間を置いて首肯する。

「僕には力がないから。勇気もないし、オーガどころかゴブリンだってきっと満足に倒せない」

 彼は言葉を区切って「でも」と付け足す。

「眠らないことはできるかもしれない。もしも一週間眠らずに起きれていたら――キミ達の事を教えてほしい」

 
 エリネは、彼に出会って以来初めて「……は?」と、彼女にしては実に間の抜けた表情をさらすはめになった。

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