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マビノギ-Generation 0- 第二章28 第四十七話



          28


 その少年は、じっと様子を窺っていた。
 茶色で少し癖のある髪を木陰にこすりつけて、じっと息を潜ませていた。凡庸な顔立ちは緊張感にこわばり、蒼白となっている。

「ねえ」

 その顔色が、凍りついた。
 肩を叩かれたからだ。
 だが、ぽんと置く程度のその手さえも少年には心臓をわしづかまれる思いだった。

「おどかすなよ……!」

 呼吸さえ苦しそうに、それだけを言う。すると肩を叩いた手のぬしは不機嫌そうに眉をつり下げた。

「いつまで偵察なんてやっているの。もう時間もグループもあんまりないよ」

 少女だ。少年と同じ、クラス〈Ⅱ〉の制服に身を包んだ、短髪で勝気そうな少女。互いの手首には同じ番号が刻まれた腕輪がはまっている。

 だが少年は自分のパートナーである少女をみても、なんら気持ちを落ち着かせることはなかった。

「はやく伏せろっ! 隠れて!」

 少年は少女の頭を地にたたきつける勢いで伏せさせる。文句と罵倒の言葉が聞こえたがこれも無視。

 少年が木陰から慎重に、顔をのぞかせる。
 木陰の先にはなにもない。木々が生えにくい地面状態なのか、やや開けた空間となっていたがそこにはなにもない。

「なにもないじゃないっ……」

「しっ……!」

 少女の非難の声をかすれ声でかぶせて黙殺。

 そして、ソレがみえた。

 少女にはソレが、はじめはちかりと光ってみえた。目の錯覚のような、陽光の反射のような、そんな刹那の察知。
 だが。

 ――キンッ。

「え……」

 ――キン、キン。

 と、軽い音が聞こえた。少女は食器をうち合わせたような音だと思った。
 ところが次の瞬間、少女の目にはっきりと発光がとらえられた。

 それは赤。
 燃え滾る火炎のような、赤。

 それは銀。
 照り返る湖面のような白銀。

 少女がそれをなにかと認識する暇も与えず、破砕音。地面が大きく陥没する。そのくぼみの中心点で、ふたりの男が剣をかみ合わせていた。

 少女はそのどちらにも見覚えがあった。

「ライル先輩と……ゼオード・グラシア……ッ?」

「しっ……しずかにしろって……バカ!」

 少年は慌てて少女の口をふさぐ。その手はがくがくと震えていた。

 ふたりの視線のさきで再び剣撃音。
 リズムなどはない。ひたすらに不規則で、どこまでも乱暴。だというのに時折水をうったように静かになる。

「わっ……やばい」

 再び衝撃。
 ふたりが隠れる木々のすぐ隣の植え込みが大きく抉られた。
 少女は半分パニック。少年のほうはそれをみて幾分か冷静さを取り戻したのか、少女の口をおさえたまま、ゆっくりとその場を離れる。

「あんなのに巻き込まれたら、本当に死んじまうよ……!」

 と、呟きを残して。


 横合いから忍び寄る影に気づかないまま――。


          †


「――ッらぁぁァァああああああああああああ」

「しゃらァッ!」

 何合めかになる剣の打ち合い。叫びと気合がふたりを包む。黒と赤、二対四つの瞳が、ただ一つの空気を共有していた。
 しかし、そこに宿すものはまったくといっていいほど相反している。

 赤――ライルの瞳には、怒りと焦りが。

 黒、ゼオードの瞳には、愉悦と狂気が。

 二人は叫び、それぞれに剣を振るう。

 刃がかみ合った。
 すかさずライルが雷光弾を詠唱。ゼオードは握る刃に身を寄せて膝蹴りを放つ。

 ライルは剣を握る指がつぶされる寸前で剣をひき、魔法を解き放つ。

「雷光弾〈ライトニング・ボルト〉!」

「しゃぁッ!」

 低い叫び。ゼオードは蛇のような声で雷光弾を強引に刀身で叩き落す。間髪いれずに前へでて、返す刃で横なぎに一閃。
 身をたわませてこれをかわし、さらにライルも前へでて、頭を突き入れる。

 ヒット。

 ゼオードは頭突きをくらってわずかに後ずさる。すんでのところであいている腕で直撃をさけたものの、隙ができてしまう。慌ててさがるゼオード。

 そこを見逃さない。
 両手でグラディウスの柄を握り、ライルは身体を引き絞って剣を構え――振るう。

「らァ――ッ!」

 はいった――とライルが思った瞬間。

 ゼオードが、剣を手放した。
 右から左へ、柄をまわすように手放す。剣は半回転――いや、全回転だ。円盤を思わせる動きでライルの眼前をふさぐ。

「なっ……に」

 ライルは剣をとめざるをえない。くるくると空中で旋回する刃を警戒して腕の力を急速にぬく。しかし止めることはできない。 急遽目標を変更、剣に切り替える。

 軽い金属音。ライルの剣がゼオードの剣を叩き落す。落ちた剣は勢いを残してバウンド。所有者の手が荒々しくそれをひっ掴み、

「しゃあッ!」

 ゼオードの回し蹴り。ライルはこれを捌く術がない。

「ぐぁッ……!」

 横腹に踵を叩き込まれて吹っ飛んだ。

「くくく……かかかか、どうしたライル・ラングル」

 ゼオードの手から、血が滴り落ちる。ライルが叩き落した剣の刃部分を強引に掴んだ結果だ。しかしゼオードはそれをまったく意に介せず剣を放り、柄の部分を強く握り直した。顔には歓喜の表情がありありと浮かんでいる。

「そら受け取れ。――雷光弾〈ライトニング・ボルト〉!」

 かざした掌から放たれる雷撃。バランスを崩したままのライルの口は小さく呻きを漏らし――否。

「ッ……雷光弾〈ライトニング・ボルト〉!」

 呻きではなかった。ライルは蹴りをくらった瞬間に既に魔法の詠唱にはいっていたのだ。

 電撃と電撃の衝突。
 中空で枝葉のような残光を帯びたまま、辺りに炸裂音を響かせる。

 とっさに耳をおさえたくなるほどの音響。しかし当のふたりはそれすらもかまわず、前に踏み出していた。
 ゼオードの突きいれ。身をねじってかわすライルは突き入れられた腕の肘部分を左拳で強く弾いた。ゼオードが唸る。

 チャンスだ。
 だがそのまま右のグラディウスで斬りつけようとしてして、今度はゼオードの左手に手首を掴まれてしまう。

「…………ッ」

「くくくくく」

 瞬時に決断。ライルは剣を手放した。

「む――? ぬぐッ……!」

 ゆるやかに外側へとおちてゆくグラディウスに一瞬気をとられたゼオードの腹に膝蹴りをぶち込む。
 屈んだゼオードは首を若干突き出す姿勢となる。

 ライルは身体をひねり、その首を両腕でがっちりと肩にかけて――背負い投げる。

「ォォオ――らァッ!」

「……ッ!」

 接地寸前で、ゼオードは身体を自らまわして強引に着地。振り返りもせずに這うように前へ転がって逃げる。そこをライルの蹴りがかすめた。

 すぐさま立ち上がったゼオードが剣を突き構えながら魔法を詠唱。

 ――剣が先か、魔法が先か。

「雷光弾〈ライトニング・ボルト〉!」

 ――魔法!

 ゼオードの掌から電撃が迫る。

 ライルは転がってコレを躱す。だが直後に振りかぶったゼオードの剣が眼前に迫り――。

 がちり、と。
 すんでのところで拾い上げたグラディウスで受け止める。

 突きいれを払いあげて立ち上がる。そのまま三合打ち合って互いに背中合わせで剣を噛み合わせた。

「これ以上好きにゃやらせねえぞ。てめェだけは……てめえだけはっ! 絶対に許さねえ」

「くくくく……ああ、ああ、いいとも。オレは貴様のそのツラがみたかったッ」

 再び、剣撃が重なり合う。


          †


「おまえが悪いんだ」

「アンタが悪いでしょ、どう考えても!」

 リオンが叫ぶと、カトレアは倍近い声量で反論した。その手は髪の毛の先を摘んでいる。

「どーすんのよコレ! あたしの髪! 凍っちゃったじゃないの!」

 言われて、リオンはぶすっと顔をしかめた。
 指摘どおり、カトレアの薄桃色のハネ毛は、一部が凍りついていた。それも、霜がおりているなどという愛らしい程度ではなく、ロックアイスが髪にはりついているような形だった。

「それはおまえが悪い。あのタイミングでどうして左に避けるんだ。理解に苦しむ」

 リオンがいうのはいま倒した二人組――⑦番ペアとの戦闘でのことだ。カトレアが牽制して、リオンが魔法でふたりの腕輪を狙い撃つという、ここまで勝ち残ってきた戦い方。『姫』であるカトレアが前面に出るリスクはあるが、リオンの魔法力を考えるとむしろ効率的だった。

 だったのだが。
 ここにきて問題が発生していた。

「よけるわよ、フツー! ああしなかったら腕輪とられちゃってたわよ! いいの、それでもアンタいいの?」

「ちがうだろ、そういうことじゃない。あの場合は右に避けるのが定石ってやつだ。左に避けて、もしも俺が仕留め損なっていたら一気に不利になるところだ。挟まれていた」

 だから、それを見越して氷結弾を撃ったというのに。カトレアは予想を裏切って左の射程内に飛び出し――すんでのところでかわしたものの、氷結弾の一つを髪にあびることとなった。

「いいじゃない、仕留めたんだから! あたしの勘では左に避けるほうがいいっていってたんだもん。サポートならそれくらい読んでよね」

「読めるか! おまえの常識無視した異次元の動きにあわせる俺の身にもなってみろ」

「異次元! なによ異次元って。女の子の髪の毛凍らせといてそんな言い草なワケ? サイテー、アンタ、サイテー!」

 ぎゃあすかぎゃあすかと言い合う。ちなみに倒された二人組は既に転送されている。

「サイテーで結構だ。とにかく勝ちたいなら普通に動いてくれ。常識外れなのはその性格だけで十分だ」

「むかっ。あたしのどこが常識ないっていうのよ」

「ないだろ」

「あるわよっ! シツレーね!」

 どんどん声がおおきくなる。リオンはいい加減疲れたというようにカトレアを睨み、

「ッ……じゃあさっきの動きのどこに常識があるってんだ!」

「信じてたもん! アンタのこと!」

 その言葉に、目を丸くしてしまう。

「な……」

「リオンなら絶対倒してくれるって信じてたもん! 実際倒したじゃん、なのになんでそんなふうにいうワケ?」

「…………」

 ――リオンにとって。

 不意打ち、という言葉があるならまさにこれがそうだろうと思う。
 そんなことをいうなんて、いってくれるなんて、思わなかったから。

「あたしはアンタを信じてるよリオン。アンタは違うの?」

「…………いや」

 視線をそらす。

 どうして、こいつは、と思う。
 まっすぐだ。いつだって真っ直ぐ。いいにくいこと、普通ならいいよどむことでもこうしてあっさり言ってのけるのだ。

 しらず胸が高鳴る。

 どくんどくんと。いつのまにかこんなにも鼓動の音が近くなっていて。

 すごいと思う。
 自分では絶対にまねできないと思う。

 そして。
 そしてだから。
 そんなこいつだから俺は――。

 と、そこまで考えたところで、

「そりゃあアンタはライルよりも弱いし? ゴウになんか片手でぶっ飛ばされちゃうし。剣の腕じゃ多分アリアより弱いんじゃないかなーって思うときもあるけど。魔法は強いじゃん? ぶっちゃけそれだけで剣技演習でてるようなズルい順位じゃん? だからね、あたしはアンタを――」

 そんなことを言われちゃったので、

「ずっと凍ってろ」

 と言い返した。もう、なんか全部どうでもよくなった。
 カトレアはさらになにかを食い下がろうとして――やめた。リオンはカトレアに視線を戻した。

「……どうするの?」

 カトレアが言う。
 その表情は暗い。暗澹としていて、ついぞ今までの剣幕が嘘のようだ。そしてその理由もリオンは理解している。
 しているが、あえて聞き返してしまう。

「なにがだ」

 と。

「だから……ライルのことっ! 戦ってたよ……ゼオードと」

 声を落として俯くカトレア。

「そうだな」

 予想通りの内容にリオンは――と淡々と答える。

「そうだなって……ライルは『姫』だったよ。ゼオードは『騎士』で……どっちもパートナーはいなかった」

「ああ。みた」

 カトレアの指摘は正しい。遠目にだったが、たしかにどちらもパートナーを連れているようにはみえなかった。

「……ねえリオン」

「ダメだ」

「ぶう。まだなにもいってない」

「いわなくてもわかってるから言ってるんだ」

「助けにいこうよ! あのままじゃライルが……!」

「ああ――」

 言葉半ばに、リオンは空を仰ぎ見た。層を重ねるような雲が、いつのまにか積み重なっている。動きがはやい。もしかしたら雨が降るのかもしれない。

「――負けるだろうな」

 はっきりと告げる。
 戦いは互角に見えた。目の当たりにする二人の剣技・体技ともにみごとなものだったが――ライルにはハンデの腕輪がある。長引けば明らかに分が悪い。加えてゼオードを失格にする術が『姫』であるライルにはないのだ。

「だったらッ……!」

「それは俺たちの役目じゃない。残っているアリアの役目だ」

「いなかったじゃない! なにかあったんだよ。ねえ、せめてリオン、アンタだけでも――」

「却下だ」

「じゃあもういいっ。あたしだけでも――」

「もっとダメだろ! 『姫』なおまえがいってなにができるっ! 狼の口に飛び込むようなもんだ」

 慌ててカトレアの腕を掴む。非難めいた視線がリオンに注がれる。

「だって放っとけないもん! ライルがやられるところなんてみたくない」

「バカか! 仮にあいつがやられたら、今度は俺たちがゼオードと戦う番なんだぞ! イウェカのでてない日中じゃ俺の魔力だってまともにはひきだせない。夜まで待ってそれから挑むのがベストなんだ、バカ」

「放してっ! バカバカいわないでよ、このバカ! えっち!」

「ッ……おまえだって、卒業したいんだろが!」

 リオンが叫ぶ。その言葉にカトレアは一瞬で毒気を抜かれてしまう。

「卒業して。家に帰って。自慢の姉さんに、はやく会いたいんだろうが。こんなところで感情に流されてンじゃねえよ、まったく」

 視線を逸らして、リオンが言う。

「…………でも」

「……俺だってそうだ。卒業してやりたいことがある」

 カトレアは下唇を噛み締めて、やがてしぶしぶと小さく頷いた。

「いくぞ。夜まで身を隠す。俺たちは――残ったほうと戦う」

 先をゆくリオン。その背を苦々しくみつめて、

「なにやってるのよ……アリア」

 カトレアはゆっくりと追従した。




 合同剣技演習――『姫と騎士』

 ⑦番ペア――クラス〈Ⅱ〉男子生徒、女子生徒組、失格。
 残り――三組


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