オンラインMMO『マビノギ』をモチーフとしたオリジナル小説【メインストリーム-Generation 0-】を中心に扱っております

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マビノギ-Generation 0- 第一章01 第五話



           ※


 ――世界を救うといわれた。

 お前は世界を救える者だと。
 どうということはない。
 嬉しいも嬉しくないもない。
 そんなことを言われてもまず、信じられない。
 だから、ああそうかと。
 実感なく、ただそれだけ答えた。
 もしそうなるならすごいなと。まるで誰かの物語を聞くように。

 世界が滅びるといわれた。

 そうなのか、と答えた。
 信じられないという気持ちが遥かに増した。
 このままでは滅びるが、それをお前が救えるという。
 そんなことあるのかと。
 ついには疑問を口に出してしまった。

 大切な人を失うといわれた。

 お前は世界を救うことはできるが、大切な人は救えないと。
 だから聞いた。
 世界を救えるほどの力があるなら、大切な人も守れるんじゃないかと。 
 
 全ては決められたことだといわれた。
 誰が決めたのかもわからないのに、もう決まっていることだと言う。
 だから答えた。

 大切な人を守って、世界も救えばいいと――。


          ~マビノギ-Generation 0- 第六章より~


          ※


 この物語はフィクションです。マビノギをモチーフにした二次創作であり、実際のクエスト・キャラクター・ギルド名等とは一切関係がありません。

第一章 ティルコネイルの剣士たち


          1


 ――然るに、評価とは単一の物ではない。

 長い思考の果てに、アリア・フェルドはそんなことを結論づけた。
 なぜならば、他人による自分への評価と、自分による自分への評価がまず違うからだ。

『アリアは、同年代とは思えないくらい落ち着いてるよね』

 他人は――とりわけ特に親しい友人でさえ自分に対しての評価はこうなのだ。
 しかし彼女はそんな評価を受けるたびに思う。すなわち、落ち着いてなどいないと。

 そんなことを考えながら、自身のまだまだ発展途上の胸部、その中央に利き腕である右手をそっと触れさせる。
 ドッドッドッド……と激しい心臓の鼓動がたちまち指先から掌にまで伝わってくる。
 緊張のあまり、高まる動悸を抑えきれないような未熟者の自分がどうして落ち着いてなどいるものか。
 すると、右手も小さく震えていることに気付き、アリアは小さく鼻をならした。

(まったく、未熟にもほどがある)

 しかし、そんな自分自身の矮小さを実感することだけが、今せめてもの慰めだった。

 アリアは小さく息を吸い込むと、身体に馴染ませるように大きく足を踏み出した。
 途端に、それまでなによりも大きい音だと思えていた鼓動も聞こえなくなり、ただ風の音だけが聴覚を支配する。
 左手には、大振りで鉄ごしらえの剣鞘。その感触を確かめるように小指からゆっくりと鞘を握り直し、相対する人物を見据えた。

 距離にして五、六歩先といったところだろうか。
 その男は鋭い単眼を瞬きすることなくアリアへと向けていた。服装や顔つきこそ壮年期のそれだが、若者のように筋肉質な体型が全身から威圧感を醸し出している。恐らく、長い黒髪に隠れて見えないもう一つの瞳も同じようにアリアを射抜いていることだろう。

 その右手には既に抜き放たれた剣。こちらも大振りのもので、男の年季を感じさせるごつごつとした右拳が力強く包み込んでいる。

 アリアは、今自分が倒さねばならない相手の凄まじい気迫に思わず呑まれそうになった。

 こくり、と小さな音が喉を打つ。充分に潤っていたはずの喉は既にカラカラに干からびていて、力強く握った剣鞘は早くも手汗でどろどろになったかのような錯覚に陥る。

(落ち着け、相手は相手。私は私だ)

 アリアは小さく深呼吸をして瞳を薄く閉じる。そしてカッと大きく見開き、その翡翠の双眸を相手へと真っ向からぶつける。
 男がゆっくりと両手を剣に添えて構える様子が、風に揺れる自身の金毛の隙間からよく見える。

(迷うな――いまは!)

 決意が先か、或いは身体が動いたのが先だったのか。
 アリアは男に向かって大きく踏み込むと同時に姿勢を低くし、素早く右手を自身の剣柄にかけると、鮮やかに抜き放った。

「――はぁッ!」

 気迫からこぼれでた声と同時にしゃらりと鞘に伝わる速度が今、最速の一撃となって男へと奔る。
 しかし必殺と思えたその速度を予想していたのか、男は小さく身体を揺らして受け止める。

 散る火花と、耳を引き裂くような刃と刃の衝撃音。ぎしぎしと絡み合う金属と金属。
 アリアは身体を右に捻り、同時に突き上げるように剣を上に走らせて刃競り合いから抜け出すと、そのまま半回転を加えて小刻みに連続で打ち込んだ。

 男のバランスを崩して狙った見事な剣撃はいずれもあっさり男の剣のもっとも頑強な中腹で受け止められてしまう。それどころか男は重心を感じさせない軽やかな足取りでアリアの剣撃をいなしていく。

 完全に見切られている。
 奇襲からの連続攻撃をやすやすと見切られてアリアは戦慄を覚えずにはいられなかった。
 しかしその動揺を表にだすことなく、攻撃する手を休めない。ただひたすらに、男に反撃の機会を与えず打ち込んでいく。

 やがてそれに呼応するかのように男の動きが鈍くなっていった。
 いや、アリアの剣速が男のそれを次第に上回っているのだ。
 女性特有のしなやかな動きと、その柔軟な身体をバネのように捻じ曲げて生み出す膂力。それはいまや男にとって充分な脅威たりえた。

「…………む」

 僅かな呻きと同時に、男は遂にその身体を大きく背後へ逸らしてバランスを崩す。

「てぃやぁぁぁぁッ!」

 アリアはそれを待っていたとばかりに大きく前へ踏み込むと、利き手に握っていた剣柄に左手も添えて、身体を大きく捻り、腕力と体重の全てを乗せて袈裟斬った。

 それは見事に男の身体をとらえて中空に鮮血の飛沫が舞い、倒れ伏す――かに思えた。

 しかし現実はまるで瞬間移動の如く。突風に近い速度で中空に舞ったのは鮮血ではなくアリアの身体。
 胸部に息が詰まる圧迫と衝撃がはしり、アリアは地に転がってしまう。

「――かはッ…………ぁ……」

 咄嗟に自身の胸部を押さえ込む。金属プレートで保護していたおかげか、そこに痛みはなく、しかし無性に咳き込みたくなる衝動を抑えきれない。
 アリアは自身の拳底で胸元を強打して強引に咳を押さえ込んで、素早く剣を構えなおす。もちろんその間、相手の男から視線を一度として離さない。

(読みが、甘かった……!)

 身体を起こしながら、小さな後悔を覚える。
 確実にとらえたと思ったその瞬間においても、実に三通りの反撃に備えていたというのに。

 男が後方に大きく下がってしまい、斬り込みが浅くなった場合。

 隙を見せたと思わせて、誘い込みだった場合。

 相打ち覚悟で前へ踏み込んできた場合。

 しかし男はそのいずれでもなく、確実にかわせないタイミングで、かわした。同時に剣を握っていたはずの右手の掌底で、アリアの胸部を打ち抜いて大きく後方へと吹っ飛ばしたのだ。

 誤算だったのは、男が剣を手放すという可能性を考えなかったこと。押しのけられた剣という枷を捨てることで、男は瞬時に体勢を立て直し、かわせないはずの剣撃をもかわし、見事反撃を成功させた。
 見事なカウンター。恐るべきは男の戦闘センスだ。アリアは単純に剣という武器のみを警戒していた自身の浅慮さを恥じた。

 アリアがゆっくりと身体を起こし、体勢を立て直すと、男もその抜き手には既に手放したはずの剣が握られていた。戦闘は再び振り出しに戻ったかにみえた。

「よし、ここまでだ」

 そこへ再び攻める機会をうかがっていたアリアに男の声が制止をかける。
 僅かな逡巡のあと、アリアは小さく息を吐いて、抜き身の剣を静かに腰の鞘へと収め、男へ深々と頭をさげた。

「ありがとうございました――レイナルド先生」

「うん。見事な腕前だアリア。上達したな。最後はまぁ、私の反則のようなものだな。つい反射的に手が出てしまった」

 レイナルドは先ほどまでの威圧感を全く感じさせない優しい笑顔で語りかける。
 しかしその言葉にアリアは小さく首を振ると、

「いえ。私が予想していたいずれにもない方法で反撃がきました。これが実戦ならばそれこそ私自身の命取りとなっていたでしょう。まだまだ精進の足らぬ若輩者の私です、良い勉強になりました」

 背筋をピンと伸ばし、はっきりと聞き取れる声で返答した。
 その迷いのない言葉にレイナルドは少し困ったような表情を浮かべる。

「アリア。キミのその情熱は買うが、あまり気負いすぎないようにな。キミは良くやっていると思う、いずれ素晴らしい剣士になることもできるだろう」

「……恐縮です」

 今度はアリアが困った顔を浮かべる番だった。褒めてくれるのは素直に嬉しいが、自身の未熟ぶりがその喜びに歯止めをかける。

「うむ。一層の努力に期待しているよ。ではティルコネイル剣士学校クラス〈Ⅰ〉、学生番号六二〇四番、アリア・フェルド。学期末実技試験をこれにて終了する。結果発表は明日の一六時。ただし結果如何にかかわらず、明後日の合同剣技演習に備え、今晩はゆっくりと身体を休めるように。なにか質問はあるかね?」

「いえ、特にありません。ありがとうございました、失礼します」

 アリアはもう一度深く頭をさげると、三歩ほど離れてからレイナルドに背を向けて、ここ、ティルコネイル剣士学校の練習場をあとにした。


          †


 ティルコネイルというのは雄大な平原と田畑に囲まれた小さな村だ。
 およそ特産物と呼べるものはなく、南のダンバートンやイメンマハといった都会に比べると小さな片田舎に過ぎない。
 しかしそこで暮らす人々はこの澄んだ空気と、広場の象徴たる大樹を愛し、つつましい生活を送っていた。

 ティルコネイル剣士学校は、そんな小さな村の数少ない教育施設の一つだ。
 その歴史は浅く、どちらかといえばまだ新しい。加えてこの田舎では生徒数もそう多くはなかったが、評判を聞きつけてか他の町からの入学志願者も年々増えている。

 現在の剣士学校生徒数はおよそ八〇人ほどで、クラス数は四つ。
 いずれも剣技の上達と知識量によって最上級のクラス〈Ⅰ〉から初級のクラス〈Ⅳ〉にわかれており、そこに年齢や性別の制限はない。

 生徒は専用の、肩と胸部を保護する金属プレートの備わった学生服に身を包み、日々勉学と稽古に励んでいた――。




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