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マビノギ-Generation 0- 第一章07 第十一話



          7


「なーんだ、ライルはいないのかぁ……」

 程なくおばちゃんから差し出された残り物――というにはやや豪華だったが――を口の中で咀嚼しながらカトレアは呟いた。よく噛んでごくりと飲み込み、そしてため息を一つ。その吐息は無念という言葉を如実に伝えていた。

「朝食までは一緒だった。そのあとは用事があるとかで出て行った」

 そんな彼女の様子は気にもかけず、リオンは寮で自分と同室の男子生徒の行方を淡々とした口調で語った。

「むう。用事ってなんだろ。まさかまた女の子と一緒とかいうんじゃないわよねえ」

「ありえるな。アイツは頼まれたら断るということを知らねえからな。ウチのクラスでも期末試験で赤点ギリギリのやつが何人かいるだろ。そいつらに追試対策を付き合ってとでも言われたんじゃねえのか」

 ミシッ。

 フォークを持つカトレアの手に力がこもる。

 それはあまりにもありそうで、あまりにも目に浮かぶ光景だったからだ。

「もうっ……なんでライルは誰にでも優しいのよ…………」

 それは彼女にとって、想い人に対する素直な気持ちだった。



 そう、彼は優しいのだ。

 勉強中や稽古中に話しかけても嫌な顔一つせずに応対してくれるし、人の嫌がることは決してしない。また、悩んで沈んでいたりするとすぐに気付いて相談に乗ってくれる。おまけに容姿端麗で成績優秀ときている。

 もう明らかに神様が贔屓しているとしか思えない、冗談のような人間だ。

 だが問題はその優しさがカトレア一人に向けられていないということだった。

 彼は誰にでもそうなのだ。困った人がいるならば老若男女関係なく助けるし、悩んでいる人がいるなら自分をそっちのけてでも力になろうとする。

 そういった光景を見かけるたびに、まるで「お前もその他大勢の一人と同じなんだよ」と思い知らされているような気になってしまう。

 無論、勝手な思い込みだとは思う。
 彼のそういうところを好きになったことに間違いはない。しかし――しかしだ。それがどれだけ乙女の心を傷つけているのかわかっていないのだ、あのライルという男は。

 それがまた、カトレアにとっては腹立たしい。

「はぁ……」

 考えれば考えるほどに憂鬱になってしまう。自分らしくないな、と思いカトレアはそこで考えるのをやめた。
 気付けば山盛りだった料理は綺麗に平らげてしまっていた。 

「……うん。ちょっと足りないけどごちそうさまでしたっ! おばちゃん、お茶おねがーい」

 厨房へ向かって叫びながら、空になった食器の前で掌を重ねてお辞儀する。

「茶くらい、自分でいれてこい」

 呟くように、せっかくの満足気分に水を差してくるリオン。

 彼は生真面目だ。というより冗談が通じない。この突っかかるような物言いを聞いていると、先ほどの怒鳴り声がまだ耳の中に残っている気がしてカトレアは顔をしかめた。

「ぶぅ。だってお腹いっぱいで動けないんだもん」

「自分で『ちょっと足りない』っていったろうが。お前と違っておばちゃんたちは忙しいんだよ。いつまでも寝てられる暇人がさぞ憎たらしいだろうな」

「ふーんだ。読書も二度寝も趣味って意味じゃ一緒でしょ。あたしたちはいってみれば同じことに時間を使っていたのよ。趣味という共通の目的に」

「おまえと一緒にするな。だいたい趣味ってのはな――」

「あッ! そうだ趣味っていえばさ、リオン。アンタ占いできたよね。どお? 久しぶりにさ、あたしを占ってよ――! 」

 いつもどこか不機嫌で無口で愛想の一つもない男子の、なけなしの取り柄を思い出してカトレアは揉み手をつくった。「人の話を聞けよ……」という呟きが聞こえた気がしたが、あえてスルーする。

「ほら、今日の夕方に期末試験の結果発表でしょ。ね、あたしが何位くらいか占ってよ」

「イヤだ。だいたい占いでそんな細かいことまでわかるか。夕方まであと何時間もねえだろうが。おとなしく待ってろ」

 くだらねえ、と吐き捨てられる。カトレアもいつもならここで悪態の一つもつきながら引き下がるところだが、今回はひけないだけの理由があった。

「あたしだって本当なら試験結果なんか興味ないけどさ。でも今回は剣技演習がかかってるしぃ。成績次第じゃ明日の剣技演習でられないんだよ? アンタだって気になるでしょ」

 カトレアは腰に手を当てて「ま、あたしは大丈夫だと思うけどね」と胸を張る。するとようやくリオンは本から視線をあげた。

「演習、演習って……そんなに大事なモンかよ。別に出られなきゃ出られないでいいだろ」

「……なにいってんのよ。アンタだって去年の剣技演習出たんじゃないワケ? 合同剣技演習に出ることがどれだけ大事か知らないとは……」

 お互いに重要であるはずのことなのにまるで動じていないリオン。喋りながらカトレアはその理由に思い当たった。

「あれ? 確か、アンタ去年は……」

「ああ。出てないな。去年俺は魔法学校のクラス〈Ⅰ〉だった」

 その言葉で、カトレアはとても利用頻度の少ない制度の存在を思い出した。

 ティルコネイル剣士・魔法の両姉妹学校には交換留学制度というものを設けている。毎年、卒業・進級が内定されている生徒だけを対象に、希望者は学校を移ることができるのだ。

 剣士学校の生徒なら魔法学校へ。魔法学校の生徒なら剣士学校へ。名目上、留学として教養を深めることを目的としているそれは、実際には転校と同義であり、各学校に入る時点で将来への志しをある程度決めてしまっている多くの生徒には全く浸透しなかった。

 カトレアも四年間という日々を剣士学校で送ってきたが、転入、または転校をした生徒を他に知らない。だから、クラス〈Ⅰ〉への進級当初、転入生ですとリオンの自己紹介を聞いても冗談にしか感じられず、すぐに忘れてしまっていたのだ。

 勿論、リオンという生徒をよく知った今となっては彼がそんな冗談をいうような性格ではないことがわかる。

「でもさ。魔法学校卒業できるだけの腕があるならそれでもう充分じゃない。変人よね」

「大きなお世話だ」

「はぁ。でもまあそういうことなら知らないのも無理ないのかな」

「……?」

 声の調子を幾分か落として話すと、雰囲気を察したのかリオンも真剣な面持ちになった。

「んとね。魔法学校がどうかは知らないんだけど、ウチらの剣士学校じゃ毎年進級試験を受けないと進級できないの。もちろん受けられても合格しなかったらダメなんだけど……。とにかく、進級試験を受けるにはそのクラスで一〇番以内に入ってないとダメなの。わかる?」

「ああ。その辺りは魔法学校も大体おなじだった。だがそれと演習のなにが関係するんだ」

「合同剣技演習はクラス〈Ⅳ〉を除いた全クラスの成績上位一〇名が参加できるの。他のクラスならその時点で進級できる子と出来ない子でもうはっきり分かれちゃってるからあんまり関係ないんだけど。ウチらみたいに卒業を間近に控えたクラス〈Ⅰ〉の場合は別。クラス〈Ⅰ〉は卒業試験を受けられる人数枠が無制限な代わりに、腕が満たないと判断されたらどんなに成績よくても卒業試験を受けさせてもらえない。だから、この剣技演習で徹底的にアピールしておけば…………」

「卒業試験への心証もよくなるってことか」

 納得いったという具合に椅子の背もたれに体重を預けるリオン。ようやく事の重大さに気付いたらしい。

 もともとティルコネイル剣士学校はその厳しさゆえに最上級クラスである〈Ⅰ〉を卒業できる生徒はほとんどいない。各クラスを卒業した時点でそのクラスでの卒業証はもらえるし、クラス〈Ⅱ〉の卒業証だけでも大きな街でなら充分兵士や傭兵として雇ってもらえるだけの価値がある。

 各々がもう充分だと判断した時点で自主的に卒業し、あとは実戦で鍛えるという生徒がほとんどである。それはお金の問題よりも、目に見えない高い壁がクラス〈Ⅰ〉卒業という栄光に立ちはだかっているからに他ならない。

 その栄光を求めて数年、クラス〈Ⅰ〉に残留し続ける生徒も少なからず存在している。
 合同剣技演習に賭けるカトレアの意気込みも当然のものだった。

「ね、だからお願い! あたしが何位か占ってよ」

「無理だ。さっきもいったが占いでそんな具体的なことまではわからねえ。せいぜい合格不合格がわかるって程度だろう」

 ため息をついてひらひらと手を振るリオン。わかったら帰れという意味らしい。しかしカトレアは逆に目を輝かせた。

「わーい♪ それで充分じゃん。お願い」

「ふっざけんなッ! やりたくねえっていってんだろ! 食い終わったならさっさと帰れ、本が読めないだろうが!」

「ってもうこんな時間じゃん! ヤッバ――! あたしアリアのとこ寄っていこうと思ってたのに! こうしてらんない、じゃあねリオン」

 食器も片付けずに脱兎のごとく駆け出していくカトレア。残されたのは憮然とした表情でそれを見送るリオンの苛立ちだけだった。

「…………」

 おばちゃんがようやくひと段落したのかお茶をもってやってくる。

「お待たせ……ってあら? カトレアちゃんはもう行っちゃったのかい?」

「……今出てったッス」

 リオンは口を尖らせて短くそれだけ返事をする。口を開くと文句の一つも吐いてしまいそうなのを必死にこらえるようだった。

「そうかい。じゃあこのお茶はリオンちゃん飲んでおくれよ。そうだ、美味しいフルーツもあるんだよ、よかったら食べるかい? おばちゃんのおごりだよ」

「いらねッス」

「そうかいそうかい。じゃあ今すぐ切ってもってくるからね、ちょっと待っといで」 

 おばちゃんはカトレアの平らげた空の食器をもって再び厨房へ戻っていった。

「…………」

 ――なんでどいつもこいつも人の話を聞かないんだ。

 どうやら本当に今週の運勢は最悪らしい、とリオンは大きく肩を落とした。


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