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マビノギ-Generation 0- 第一章10 第十四話



          10


 ティルコネイル聖堂から街道を下っていくとやがて農耕地を抜けて、剣士・魔法の両学校にたどり着くのだが、逆に街道を道なりに上がっていくと、村の象徴ともいえる大樹がそびえ立つ広場がみえてくる。

 広場というと一見子供たちが遊び転げている印象を受けるが、実際には大人たちがその場を占有していることが多い。というのも、広場は舗装されて石畳が敷き詰められており、広場を囲うように雑貨や食料品といった商店が林立しているため、いつしか商店街で買い物を済ませた人々の世間話の場として定着してしまった。

 井戸端ならぬ、大樹端会議よね――カトレアはそういった光景を目の当たりにする度に思う。
 主婦たちの話し声は、どういう理屈だか普段カトレアが稽古で剣に気合を込める声よりも大きい。笑い声などはるかに凌駕しているといってよかった。一体どこからあの声量をだしているのか永遠の謎である。

 しかし実は、カトレア自身も噂話などをしている時は主婦らのそれにかなり近い位置の声質なのだが――無論本人はそんなことを知る由もない。

 そしてカトレアにとっても今はそういったことが瑣末に感じるほど、大きな問題をすぐ横に抱えていた。

「あー、なにか新作入ってるかなっ。あたし新しい帽子が欲しいのよね。こないだ買ったリリナの羽根帽子、羽根がなくなっちゃってさ」

「…………」

「ね、ねえ。アリアもたまにはなにか買ったらどお? お金、少しくらいなら使えるんでしょ? たまにはさっ、こう、オシャレとかしてみない? アリア可愛いし似合うよきっと!」

「…………」

 これだ。先ほどの一件以来、アリアは全く口を利いてくれなかった。
 少しばかりからかうつもりだったのだがどうやら本気で怒っているようだ。心なしかわざと反対方向を見ているような気がする。

 やはり成長しているか微妙、などといったことが原因なんだろうか。それとも図々しく昼食のご相伴に預かったことを怒っているのだろうか。それとも……。

 とりとめもなく考えるが、答えらしきものはどうも全部のような気がした。カトレアは意を決したように口をへの字に曲げて、アリアの歩みを防ぐ形で向き直った。

「もう! いい加減、機嫌直してよ! 不満があるなら直接いってくれればいいじゃない」

 元はといえばカトレア自身のせいなのだが――彼女は考えて行動することが苦手だった。
 そしてそんな彼女らしい、相手からすれば逃げ場のないストレートな物言いだ。アリアはようやく彷徨わせていた視線をカトレアへと向けて、

「…………別に、何も不満はありませんが」

 そんなことを言った。

 明らかな含みのあるその物言いに、カトレアは人差し指をたててアリアの眉間に触れた。

「嘘! こ~んなに皺が寄ってるもの。いつものアリアはもうちょっと皺が少ない!」

 全く理由にはなっていなかったが、アリアは何故か納得したように小さく唸った。

「む……いいです。本当にもう怒っているわけではありませんから。そもそもカトレア。あなたは一体何に対して私が怒っていたと思っているのですか?」

「え? そりゃあまぁ……いろいろ…………」

 色々ありすぎてどれだろう、とは言えない。そんな彼女の思考を読んだのか、アリアは言葉を続ける。

「人の家の昼食で遠慮なく三度もおかわりをしたことですか? 後片付けを手伝うといって貴重な皿を二枚も割ったことですか? それともコーネにまで『アリアおねえちゃん、おむねがちいさいの?』と言わせるような行いをしたことでしょうか? ……あれは、さすがにショックだった」

 最後のほうで言葉弱く項垂れるアリア。カトレアは苦笑いを浮かべて言葉を探した。

「あは、あははは……いや、うん。ちっさいって言ったことなら謝るよ。ごめんね? でもいいじゃない、胸がちっさくったってそういうのが好きな人は多分いっぱいいるよ! アリアはアリアらしく自信もって生きればいいじゃない!」

 謝罪でもなんでもない――むしろ怒りに火を注ぐような物言いにアリアは肩眉を吊り上げかけて、ふっとため息をした。

「…………あなたというひとは。いいです。過ぎたことをいつまでも気にしても仕方がない」

「わーい! でしょでしょ? じゃあさ仲直り――」

 アリアは破顔して飛びつきかけたカトレアに「ですから」と言葉を次いで右手を突き出した。中指を親指で押さえた形の右手を。

「――これで許してあげます」

 そして瞳をぱちぱちさせる彼女の額に、容赦ない中指の一撃を見舞った。

「痛っ! いったぁ痛い…………でこぴん? なんでぇ?」

 おでこをさすりながら涙目で訴えるその様を冷ややかに見つめるアリア。

「自分の胸に聞いてみると良いでしょう。その大きな胸に」

「やっぱりそれを気にしてるんだ……」

 目尻を拭いながらぼそりと呟いたカトレアだったが即座に「なにか?」と問われ、慌てて首を左右させた。

「それで。一体どういうことですかカトレア。私は確か結果発表をみにいくと聞いたのですが。まだ夕方には早い上に学校は逆です」

 歩みを進めながら、今来た道を振り返ってアリアは疑問の視線を投げかける。恐らくもっと早く尋ねたかったのだろうが、一度口を利かない怒り方をしてしまった以上、怒りの納めどころを待っていたのだろう。

「だからぁ、夕方まで時間あるから買い物に付き合ってもらおうと思ったの。マルコムさんの雑貨屋、最近いってなかったからさ。……うー。いたいよう」

 今だ赤くひりひりする額を撫でながら、事情を説明する。食堂で満たしきれなかったお腹も満足したことで次は購買欲を満たしたくなったのだ。アリアの家でゆっくりしたものの、幸い夕方まではまだ少し時間があった。しかしその言葉にもアリアの表情は優れない。

「無駄遣いは控えたほうが良いですよ。仕送りする親としても決してラクではないでしょう。これは友人としての忠告です」

「だって、こーんな小さな村じゃ買い物くらいしか楽しみがないじゃん。そりゃダンバートンに比べたら店も品揃えもいいとはいえないけど、たまに珍しい掘り出し物とかあるし。アリアはそういうの気にしすぎっ!」

 どうしてこう頭が固いんだろう。カトレアは横を歩く融通の利かない友人を改めて見つめた。

 服装はおなじだ。これから学校へいく為に着替えてきた剣士学校の制服。白地の上着に赤のスカート姿。
 スカート、ズボンは所属するクラスごとに〈Ⅰ〉は赤、〈Ⅱ〉は青、〈Ⅲ〉は緑、〈Ⅳ〉は黄色となっており、男女共に上着の上から鉛色の金属プレートが胸部を肩から覆っている。

 カトレアはこの制服のデザインは嫌いではなかった。着崩れの一切ないアリアの完璧な着こなしを確認して、視線を顔まで移す。
 不機嫌そうに口を引き結んでいるが、均整のとれたやや鼻の高い顔立ち。そして陽の光を浴びて透き通るような蜂蜜色の髪――今は残念なことに短いポニーテールに結ってしまっているが、解くと天使もかくやという感嘆すべき流麗な髪だ。

 羨ましい。何度そう思ったことだろう。騎士などどう考えても勿体無い。

 そこまで考えて、カトレアは実家のあるダンバートンを想った。きっとダンバートンでならアリアに相応しいだけの魅力的な服がみつかるだろうに、と。

 たとえ買えなくとも、アリアであれやこれやと着せ替えするだけでも楽しいに違いない。ああ、そのときは絶対に髪をおろしてもらって、素敵なご友人ですねーとか店員に褒められちゃったりなんかして……。

「――カトレア。カトレア?」

「ふほっ? な、なに、どしたの?」

 いつしか涎をたらしながら妄想にふけっていた彼女に、アリアが怪訝そうな視線を向けていた。

「……私としてはあなたがどうしたという感じです。雑貨屋、つきましたが?」

 気付けば辺りは雑踏、眼前には目的の雑貨屋の看板が『営業中』と垂れ下がっている。アリアは腰に手を当てて細めた瞳で「どうするんですか」と訴えている。

「あ。ああっ! まぁ素敵なお店。さ、入りましょアリアッ!」

「…………初めてきたわけでもないでしょうに」

 アリアの呟きを無視して、カトレアは赤面した顔をみせないようにズカズカと店内に踏み込んでいった。 


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