オンラインMMO『マビノギ』をモチーフとしたオリジナル小説【メインストリーム-Generation 0-】を中心に扱っております

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マビノギ-Generation 0- 第二章01 第二十話



          ※


 【第一章までのあらすじ】


 ティルコネイル剣士学校へ通うアリア・フェルドは今、大きな転機を迎えていた。

 女の身でわずか一四歳ながらも、最高難度と噂高いクラス<Ⅰ>の卒業をかけて修練に励む毎日だったが、現在の成績は一〇位。卒業するには恐らく厳しい。
 しかし、各クラスの上位者が集って行われる『合同剣技演習』で、その実力を示すことができればあるいは――。

 だが演習をひかえた前日、友人であるカトレアを庇ったアリアは利き腕である右手に痛恨の大怪我を負ってしまう。

 そして夜が明け、演習の舞台となるウレイドの森へと集うティルコネイルの剣士たち。

 教師、生徒それぞれの思惑が錯綜するなか、現在のクラス<Ⅰ>成績首位であるライル・ラングルも姿を現した。
 剣士学校史上最高の生徒と目される彼は、アリアへと想いを寄せているようだが――?


 <詳しくは第一章をご覧下さい>


          ※


 この物語はフィクションです。マビノギをモチーフにした二次創作であり、実際のクエスト・キャラクター・ギルド名等とは一切関係がありません。


第二章 合同剣技演習“姫と騎士”



          1


 少女が、口を開いた。

 二つ結びの銀の髪を揺らして、女性らしさをこれでもかというほど強調する見事なプロポーションの少女。
 ライル・ラングルはその可憐な唇から紡がれる少女の言葉を待った。

「…………」

 ひたすらに。わきめもふらずにだ。
 すると、一度開かれた少女の口は矢継ぎ早に縦横と変化していく。

 同時に、流麗な眉や皺一つない目尻も微細な動きをみせて、少女の柔らかな物腰を一層に引き立てる。
 仮に、彼女は精巧に作られた人形なのだ、などと言われても誰も信じないだろう。

 ライルはひたすらに少女の言葉を待っていた。

 一生懸命に口を動かして、今もなにかを語っているはずの少女の言葉を。
 聞こえない彼女の言葉を辛抱強く聞き取ろうと。

「…………」

 ――聞こえない。

 やっぱり聞こえない。
 目の前で小柄な少女がしゃべっているはずなのに。時折、身振り手振りを交えながら、必死になにかをしゃべりかけてきているというのに。

 ライルは視線を動かして周囲をみた。

 ここには誰もいない。
 ライルと少女のほかには誰もいない。
 周囲はひたすらに真っ白で、足元から頭上を見上げても白、白、白。本当に白一色だった。だから正確には自分が今、立っているのか座っているのかもわからない。

 そんな場所だからこそ、ライルは少女を理解しようと必死だった。
 目の前にいるのに声が聞こえない少女を。こちらから語りかけても、言葉の届かない少女を。
 もう少し。もう少しだけ近づけば聞き取れるかもしれない。わずかでも、端々だけでも、声を拾えるかもしれない。

 そう思って、ライルは動こうとした。

 ところがそこでいつもどおりの終わりを迎える。白い世界が、さらなる白に包まれて全てを飲み込んでいく。

 ああ、もう終わりなんだと思う。
 ライルは目の前の少女にゴメン、とだけ告げる。

 でも、きっと少女には届いていないのだろう。

 そして迎える。
 日常の始まりを。
 いつもどおりの、目覚めの時間を。


          †


「……くぁ……ねむ……」

 あくびまじりに寝間着の襟を直しながら、ライルはぼんやりとベッドの上で首を動かした。
 寝違えたりはしていない。

 次にぱちぱちとまぶたを動かす。
 重い。
 とても重い。
 油断したらすぐにでも閉じてしまいそうだった。
 だがそうはさせない。

「でやっ」

 それぞれのまぶたの上下に指をそえて、思いっきりひらく。
 無理やりに外気にさらされた瞳は悲鳴をあげるように慌てて涙を分泌し、意識の覚醒をぐんぐん促進する。

「――よし」

 ライルはひんやりとした両の頬をぴしゃりと叩いて、布団を抜け出た。
 二段ベッドのカーテンを開くと、明るい日差しが室内を照らしていた。足をすべらさないようにゆっくりと備え付けの梯子を降りる。昨夜の豪雨が嘘のような快晴だ。窓の外は雲一つない青空が広がっている。

「ん。やっぱり」

 昨晩の勘が当たった。
 そんなことがなんだか無性に嬉しくなって、軽くストレッチをしながら洗面台に向かう。

 冷たい水で顔を洗って一息。タオルで水滴を拭いながら正面をみる。
 鏡の向こうから見つめ返してくる自分。褐色に日焼けした肌にはしみ一つなく、燃える様な赤の長髪はいくつか寝癖を作っていたが、それも手ぐしでふんわりと形をおさめた。

 そこにはもういつもどおりの自分が映っていた。
 いや、正確にはいつもどおりではない。
 時々みる夢を今朝もみて、表情の冴えない自分がそこにいた。

「…………」

 夢の内容を思い出す。
 真っ白の世界で、銀髪の少女がなにかを懸命に語りかけてくる夢だ。

 あの夢をみた朝、ライルは決まってこういう気持ちになる。
 どうしても、ひどく落ち着かないような気持ちになるのだ。まるでなにかをしなくてはいけないのに、なにもできることがないような。そんな焦りとも逸りともいえるじれったい気持ちが、知らず気分を落ち込ませる。

 子供の頃からときどき、本当に時々みる夢。いつ頃から見だしたのかは覚えていなかったが、数週間、数ヶ月に一回はみていた気がする。

 はじめのうちは悪い気はしなかった。
 得体は知れなくとも、少女の姿はそれはそれは美しかったし、健全な男子であるならそんな夢で気分を害することはないだろう。

 だが、回数をかさねていくうちに次第に不思議に思うようになった。
 不定期とはいえ、同じ夢を何回、何十回と重ねてみるのだ。偶然で片付けるにはあまりにも無理がある。

 少女に言葉は届かず、そして聞こえない。

 あるとき、おそるおそるだが触れてみようとしたこともあった。それこそ心臓が爆発しそうな勢いで、夢の中だというのに、少女に嫌われやしないかとか二度と夢にでてきてくれなくなったらどうしよう、だとかいろいろ考えに考えて、本当に最後の最後の手段として触れてみようとしたことがあったのだ。

 だが結局それも叶わなかった。
 普段なら必要としないような勇気を総動員して伸ばした手は、少女の身体をあっさりとすりぬけてしまったのだ。

 落胆した。
 それはもう、物凄くがっかりした。
 自分のしようとしたことが、恥ずかしくてたまらなかったから。
 会話を交わしたこともない女の子に軽々しく触れようとした、だなんて厳しく、そして優しい祖母が聞いたらきっと折檻ものだと思った。

 でもそのなけなしの勇気も徒労に終わってしまった。
 せめてもの救いは、少女がライルの手から逃れるような素振りをみせなかったことくらいだろうか。

 ――いや、触れられないことを知っていたから逃げる必要がなかったのかもしれない。
 子供心に拗ねてそんなことも思ったが、すぐに考えを改めることになる。

 なぜなら少女も同じように――ひどく落胆した表情を浮かべていたから。

 歳月を重ねる。夢の中で、少女の姿だけは変わらない。子供の頃には、お姉さんと思って見上げていた少女の背をいつしか追い抜いて、今では見下ろす形になってしまった。

「…………」

 それでもきっと、まだ彼女のほうが年上なんだろうとライルは思う。背丈で勝ったところで、少女の持つ特有の雰囲気はきっとライルよりもずっとずっとずっとずっと成熟しているに違いないのだ。いや、年齢だけの問題ではない。少女は夢の中の存在で、手を伸ばしても届かなくて、耳をたてても声が聞こえない。

 ライルにとって限りなく近くて、極めて遠い女性。決して届くことのない存在だ。

 だからだろう。

 ティルコネイル剣士学校でアリア・フェルドと出会ったとき、ライルは死ぬほど驚いた。本当に心の臓が口から飛び出しそうになった。

 夢の少女と似ていると思ったからだ。
 普通に――冷静に考えて見てみれば全く似ていない。

 アリアの髪は銀ではなく蜂蜜色だし、瞳の色だって青ではなく碧だ。さらに線の細いその身体は、女性的なラインが強調されている夢の少女とは面持ちも含めて全く違うというのに、何故かライルは夢の少女と似ていると強く思った。

 それは雰囲気だったのか、どこか憂いを帯びた表情だったのか。それとも――。

「……おい」

「うぉおおおおおっ?」

 突如、背後からかけられた声に一瞬で思考が霧散し、ライルは飛び上がって振り返った。

 見つめ返してくるのは寝癖一つない艶やかな黒髪の、小生意気そうな少年。

「リオン。なんだ驚かすなよ、怪奇現象かと思った」

「……なんで朝っぱらから怪奇現象が起こるんだ。俺にしてみれば鏡の前でにやにやしてるお前の行動のほうがよっぽど怪奇現象だ。どいてくれ、顔を洗いたいんだ」

「おま……よりによってなんてこと言うんだ。まだテンションあがってない朝からそんなこと言われたら子供は寂しくて死んじゃうんだぞ」

「こんなでかい子供がいるかっ。はやく死ね!」

 いつもどおりの罵詈雑言がかえってくる。
 しかも『どけ』じゃなくて『死ね』になった。

 ライルはなおも言い返そうと思ったがそれを待たずにリオンが割り込んできたため、結局そのまましぶしぶ部屋へ戻った。
 そして制服に袖を通しながら、

「にやにや、なぁ……?」

 と、頬をひっぱってみる。

 そりゃあ確かに朝から女の子を思い浮かべていたのは紛れもない事実だ。最初は心配していた夢の少女の顔から、徐々に現在意中の女の子の顔に思考がスライドしていって。だがそんなことで締りの無い顔が全開になるほど間抜けだったのだろうか、と。

 たとえ全てを話したところで同室の無愛想な少年の興味をひくとも思えなかったが、それでもとても口にする気にはなれない。というか、話すくらいなら死にたい。

 リオンが戻ってくる。
 木製のクローゼットから自分の制服を取って、事も無げに口を開いた。

「それにしても珍しいこともあるもんだな」

「……なにが?」

 考えていることが見透かされてる気分になって、ライルはぎくりとする。

「お前が自分から起きるなんてな。どおりで昨晩が大雨だったわけだ」

 そんな失礼極まりないことを言ってから、まるで遠足にいく子供みたいだな、とリオンは口の端をもちあげて笑った。
 どうやらリオンの興味はとっくに先ほどの件から遠ざかっているらしい。そのことにほっとして、ライルは制服の金属プレートを取り付けにかかる。

「ああ……別に朝は苦手じゃねえし。起きられないわけじゃないからな」

「うそつけ。毎朝俺が起こしてるじゃないか。しかもすぐ起きない」

 これ以上ないくらい胡散臭い表情で見つめ返してくるリオン。
 しかしライルの態度は平然としたものだ。

「悪いな。ばあちゃんのいいつけなんだ。『男子たるもの、眠れるときに眠れるだけ眠っておけ』ってな。だから毎朝ぎりぎりまで寝ていたいんだよ。その気になりゃいつでも起きられる。これもばあちゃんの教えだから」

 祖母の教え。
 大好きなばあちゃんの教えを思い出して、ライルはにっこりと笑ってみせた。だがリオンはこの答えに納得がいかなかったらしい。

「……まて。それで俺にとばっちりが出るのはなんかおかしくないか。どう考えてもおまえ、それ自分の都合よく解釈したとしか――」

「ほーらほら、ぶつぶつ言ってねえでメシいこうぜメシ。きっちり食って一日をがんばる。これもばあちゃんの教えだ」

「おい、話がまだ…………」

「先いってるぞー」

 なおもなにかをいい続けるリオンの言葉はすべてなかったことにして、ライルは部屋をでた。閉めた扉の裏から「あの野郎……ッ!」とか聞こえた気がしたがきっと気のせいに違いないと思い込んだ。

「お……?」

 いつもはまだ静かな時間のはずの男子寮の廊下が既に騒がしい。皆、剣技演習の準備にはいっているのだろう。

「……っしゃあ。今日もがんばるか」

 拳を胸の前であわせて、ライルは大食堂へと足を進めた。


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