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マビノギ-Generation 0- 第二章03 第二十二話



          3


 ティルコネイル剣士学校、合同剣技演習当日――。

 晴天、午前八時。
 トゥガルドアイル、ウレイド伐採地。

 剣士学校と寮とを結ぶ道に位置するこの伐採地は、いつになく人で溢れかえっていた。
 各人、色の違いはあれどみんな同じ制服に身をつつんだ一〇代の少年少女たちだ。

 早朝集まった生徒たちは思い思いに過ごしていた。談笑に夢中になる生徒、強張った面持ちで直立不動の姿勢を崩さない生徒、己の武器や教科書を丹念にチェックしている生徒。
 様相はそれぞれだったが、規則性なく雑多に散らばっている生徒たちのなかで、一際避けられている存在があった。こともあろうに、その生徒はあぐらをかいて座り込んでおり、腕を組んだまま眠っているのである。

 野生の熊のような巨躯。その周囲には決して誰も近寄らない。

「……おい、あれ」

 それをみて、一人の男子生徒が近くにいた友人にそう耳打ちした。制服のズボンの色はどちらも緑だ。クラス〈Ⅲ〉の生徒である。

「ああ。あれがゴウ先輩だ。今日の剣技演習、ライル先輩と並んでやっぱり優勝候補の一人だろうな」

 耳打ちされた友人は同じように顔をよせてそう返答した。



 ゴウ・バーグリー。

 校内でこの名前を知らない者はいないほど有名な、ティルコネイル剣士学校クラス〈Ⅰ〉に属する、現在でもっとも最古参の生徒の一人だ。
 腕を組んで俯いているためにその表情はみてとれないが、掘り出してきたような頑丈そうなアゴとげじげじの太い眉がなんとも威圧的だった。

「ゴウ先輩って遅刻とか欠席が多いって聞いてたけどさすがに今日ははやいんだな」

「いや。それがなんでも、剣技演習だけは遅刻したくないとかで、昨晩からずっとここで眠ってたらしいぜ」

「さ、昨晩って……昨日たしか夜、雨降ってたよな……?」

「…………」

 問われた生徒はそういえば――という面持ちでゴウを見る。座り込んで薄汚れた制服は当然のように着崩れていたが、袖や裾がぼろきれのように劣化している。その様子からは昨日今日でそうなったのではないということが容易に想像できる。『快人』の異名を持つ巨躯の生徒の性格が、なんだか見ただけでわかったような気がした。

「それでライル先輩は?」

 きょろきょろと落ち着きなくまわりを見回す友人に、男子生徒は首を振る。

「まだみてない。時間にも余裕あるからな、はやめに来ているやつは俺らみたいに出られないやつか、緊張しまくって無駄に張り切っているやつかのどっちかだろ。クラス〈Ⅰ〉、〈Ⅱ〉レベルの人だとそうはいないんじゃないか」

「あ、でもクラス〈Ⅰ〉っていやさっき俺サイス先輩みたよ。タロン先輩と一緒だった」

「あの人たちも出るんだろうな。クラス〈Ⅰ〉じゃ、あとはナキシン先輩とか――」

 そこでざわっ、と周囲にどよめきが走った。

「――だれじゃワシの眠りを妨げるのは……」

 みると、どよめきの中心でゴウ・バーグリーは地面にその巨体をへばりつかせていた。
 どうやら命知らずな誰かがゴウを叩き起こしたらしい。

「なにサ、文句でもあるノ?」

 どんな手を使って巨体のゴウを地面に転がしたのか、平然と腰に手をあてて答えたのは背が小さく華奢な女の子だ。
 萌黄色をしたミディアムストレートの髪をかきあげて、ゴウを正面から見据えている。そのみなぎるエネルギッシュな表情といたずらっぽく曲がった口元が彼女の性格をそのまま表しているかのようだ。矮躯でありながら均整のとれた身体つきは自然と異性の視線を惹きつけた。

「……ソフィア。なんじゃ、おぬしか」

 不機嫌に睨んだゴウは、相手の姿を認めるとつまらなそうに身体を起こして大きな欠伸をした。

「そ。ボクだヨ。そんなところで寝てたら邪魔でショ。ほらほらどいてどいて、みんな怖がっちゃってるモノ。ボクに感謝するべきだネ」

 独特のイントネーションで強面のゴウをあっさりやりこめる女生徒。一瞬その場を支配しかけた緊迫な雰囲気はあっさり消えうせ、その様子を伺っていた生徒たちの視線もそれぞれに戻っていく。

「ソフィア先輩、可愛いよな」

 一部始終をみとれていた友人もいつの間にか男子生徒の傍で鼻の下を伸ばしている。

「そうか? なんか変なしゃべり方じゃないか。自分のこと『ボク』とかいってるし」

 男子生徒が思ったままのことをいうと、友人のほうは癇に障ったらしい。

「バカだなおまえは。あれはわざとああしてしゃべっているらしいぜ。なんでも昔、仲の良かった友達がどこか遠くへ引っ越して連絡つかなくなったから、いつか再会できるようにってわざとその子の口調を真似て印象付けているらしいぜ。くー、けなげで可愛いいよな。なんか健気じゃね? 背は小さいけどスタイルだっていいし。今年で一七って話だから、俺と結婚したら姐さん女房だな」

 ――それってただ単に変な女ってことじゃないんだろうか。

「ソフィア先輩もでるのかな、演習」

 返答にこまった男子生徒は話題を変えた。

「でるでる。出るにきまってるぜ。あの人、ああみえてすげえ強いんだぜ。いつだったか見たときなんか、かかり稽古でライル先輩を圧している感じだったしよ」

 それはお前のひいき目でみてるからじゃないのか、と思ったが男子生徒はあえて口にはしなかった。友人の言葉は聞くべきところもあったからだ。

 かかり稽古はお互いに防具をつけて、足を止めることなく打ち合う稽古方式だ。常に動いているのだから必然隙は大きくできるし、お互いに打って打たれてが稽古の基本となる。無心で体力の限り戦うのだが、それだけに単純に普段の練度が試され、特にパワーやスピードといった基礎体力がものをいう。

 その稽古で仮にも最強の名を冠するライル・ラングルを圧しているように感じたというならば、たとえ色眼鏡でみていたとしてもソフィアが強いということは疑うべくもない。

「なんだかクラス〈Ⅰ〉の先輩達でもう優勝は決まりって感じじゃないか?」

 そう呟くと、友人は少し思案顔になる。

「いや、わかんないぜ。クラス〈Ⅱ〉には例の『お姫様』だっているし。それによく知らないけど最近復学したっていう先輩だって相当強いって話だぜ」

 お姫様、と言われてすぐに男子生徒は思い当たった。
 商業都市ダンバートンの名家の一人娘というお嬢様のことだ。剣の腕はもちろん、魔法の心得もかなりのものらしい。そのお嬢様が口を利いて復学させた生徒がいるという話も噂程度に聞いていた。

「だいたい、去年だって優勝したのはクラス〈Ⅱ〉だったライル先輩だろ。クラス〈Ⅰ〉だから優勝するとは限らないぜ。まぁ、出場しない俺たちには関係ないけどな」

 友人はなぜか得意げにそう言葉を続けた。

 言われてみれば確かに出場しない自分たちには関係のない話だ。
 男子生徒はそう思ったが、なんだか自分達のクラスをないがしろにする友人の態度に少しムッとする。

「じゃあさ。そうなるとうちのクラスで対抗できそうなのは……」

 男子生徒がそういうと、友人はあっさり否定の言葉を――言わなかった。

「……そうだな。もし可能性があるとすればリッカとルッカ――あの双子くらいだろ」

 友人の言葉に男子生徒は力強く首肯した。

 クラス〈Ⅰ〉に『最強』がいるならば。
 クラス〈Ⅱ〉に『お姫様』がいるのならば。
 クラス〈Ⅲ〉には『双子』がいる。

 言葉の終わりに向けた友人の視線の先。

 そこには黒髪をシニヨンに結った瓜二つの姉妹の姿があった。
 毎年各クラスで一人は飛びぬけた能力を持つ生徒がいるという。今年のクラス〈Ⅲ〉でいうならば、彼女たちこそがそうなのだろう。なんだか、彼女たちが自分達の代表のような気分になってくる。

 そんな熱視線を送る男子生徒の肩を友人が肘で小突いてきた。鬱陶しそうにみると、友人は顎で、とある方向を指し示した。

「優勝候補ナンバーワンのお出ましみたいだぜ」


           †


「うがああああっ……せまっ……。悪りィ、ちょっ……ちょっと通してくれっ」

 集合場所に着いたライルは視界に映る人、人、人のあまりの息苦しさに空に向かって怒鳴った。
 開会式の三十分前、彼の視界いっぱいの人混みは集合というよりもお祭り状態だった。なにしろ皆同じ制服を着込んでいる。さらにそこかしこで小人数グループによるお喋りが展開している様子はデモかなにかのようにも見える。
 もともとさして広くもない伐採地は生徒であふれかえっていた。

「とっとととと……どわっ」

 ふざけあって突き飛ばされたらしい一人の生徒が突然つっこんでくる。ひらりと躱すも、ライルは胸中で毒づいた。

 はっきりいって邪魔以外のなにものでもない。出場できない生徒まで集めるのはどう考えても失敗だと思う。
 いっそ「どけ!」と一喝すれば済む話ではあるのだろうが、それはしたくなかった。

 いらいらとしながらも黙って人の間を縫って斜めに斜めに移動していく。せめてこのままクラス〈Ⅰ〉が集まっているところまでいければ――というささやかな彼の望みは叶わなかった。

「――ライル先輩だ」

 どこからか、そんな呟きが、彼の耳にもしっかり届いてしまったから。

 ざざ――――――――っ。

 おしくらまんじゅう状態だった周囲の人間が蜘蛛の子散らすかの如く一斉に道をあけた。

「うげっ……」

 悪態づいてももう遅い。周囲の生徒たちは幽霊でもみるかのような目でこちらをみているのだ。

 視線をあげる。ふと、クラス〈Ⅳ〉の男子生徒と目があった。

「ひっ……すいません」

 そらされてしまった。
 どうも悪態が顔にでていたらしい。
 ライルは反省して、今度は笑顔――というにはかなりひきつっていたが――を浮かべた。ついでに軽く手も振ってみる。

「……………………ぽ」

 目があったのは女生徒だったが、こちらも視線をそらされてしまう。なぜか顔をあからめて。

「ええぇぇ――……」

 ――どうしろってんだちくしょう。

 笑顔をとどめたまま、誰にも聞こえないように気をつけて呟く。
 ライル自身も、自分に『最強』などというあまり有難くない称号がついていることはわかっている。

 だが自分でそうだと思ったことは一度としてなかった。
 ライルにしてみれば結果的に今一番成績がいいというだけのことで、恒久的に続くものではないと考えている。その成績にしたところで結局は人の目で測ったことを数値化しただけのものだ。
 実際には数字では計りきれない数々の素養が関係してくる。

「数字なんか、どれだけあてになるってんだ」

 ゴウ・バーグリー。カトレア・ユアレ。リオンにハーメッド、ソフィアにナキシン。

 それにアリア。ほかにもライルが出会った仲間たちはみんな一癖も二癖もあって、その強さや発想に触れるたびに「ああ、なるほど」「そうくるか」と尽きることなく感動を与えてくれる。稽古やルールによっては負けた事だって何度もある。

 だから、楽しい。
 ライルは心からそう思う。
 こんな風に誰かに怖がられたり尊敬されたりするのは本意ではなかった。

「おれはしょせん、どこまでいってもおれでしかないってのに……」

 彼は作り笑顔をひっこめて、不機嫌な半眼もやめた。

 いつもどおり、普段どおりの面持ちでいよう。
 とか思った矢先に、

「……………………ぽ」

「いや、おまえ男だろっ!」

 目があった小太りの男子生徒に怒鳴り返してライルは泣きそうな顔で仲間の姿を探した。

 いや、走りながら実際ちょっと泣いていた。


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