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マビノギ-Generation 0- 第二章04 第二十三話



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「――だーれダっ!」

「ぐはっ!」

 突如背中に走った衝撃にもんどりうって、ライルは勢いよくすっ転んだ。

「ンー? ライルぅ、もしかして調子悪いノ? ボクそんなに強く飛びついてないのニ」

「ぐっ……悲しさのあまり油断した……」

 先ほどの小太りの生徒の態度を思い出して怖気を走らせる。
 それにしても、背中のうえから聞こえる独特のイントネーション。しかし声以前にこんなことする犯人に彼は一人しか心当たりがなかった。

「……ソフィア。いいなー、お前は調子よさそうだなー」

「大正解~、さっすがダーリン。うん、ボクは絶好調だヨ」

 お気楽そうな声をだしてなおも体重をかけてくるソフィア。
 ライルはぐったりと突っ伏した地面から土の匂いをじかに感じとった。目の前にカサカサ漂う枯れ葉が彼の心にもなんともいえない哀愁をただよわせる。

 背中の無軌道台風、ハイテンションガールを心から羨ましく思った。

「……っつーかそろそろどいてくれ、起き上がれない」

「OKOK~。もし重いとカいったら絞め殺しちゃうトコだったヨ、ダーリン」

 ぐっと首に手をまわしてきてヘッドロックをしかけながらそんなことをいう。

「ちょ……してるしてるっ。苦しっ……ギブギブッ」

 びったんびったん、降参の手を叩いているというのにソフィアは「キャー」とかよくわからない奇声をあげて喜んでいる。

「あ……、なんかみえる……むりむりマジむり……ばあちゃんごめん、おれ……!」

 合同剣技演習が彼の命日――。

「――そのへんにしといたれソフィア。そいつにゃあ決着つけるまえに死なれたらワシが困るわい」


 ……と、なりかかったところで、天の助けがやってきた。

「ンー。ライルに死なれたらボクも玉の輿なれないしネ。OK~」

 天の助けにソフィアも渋々ながら了承して、ライルの背中から重みが消える。

「……げほっ……はっ……はぁ~。あーあーあー……なんか、なんかお花畑みえた……。ありがとう天の使いの人」

 ようやく解放され、咳き込みながら身体を起こしてライルは改めて『天の助け』をみた。

 採掘場から掘り出してきたような下顎と、みるからに強靭そうな身体つき。

「人じゃなくてゴリラだった」

「誰がゴリラじゃ、赤ザル。ワシが絞め殺したろかい」

「……勘弁してくれ、マジでお花畑がみえたんだって」

 拳を鳴らして詰め寄るゴリラの如き巨漢、ゴウ。
 トドメをさされかねないのでライルは苦笑混じりにごまかして周囲を見た。

 クラス〈Ⅰ〉の仲間はどうやらここに集まっているらしかった。
 みんな遠目に『またやってるよ』という目でライルたちの様子を笑っている。

「またやってるよ……」

 目だけではなかった。

「みてねえで助けてくれよ……」

 がっくりとうなだれて、ライルも笑う。
 なにより、安心してしまう。

 遠目に様子を伺っている彼らの目には、先ほどの他クラス生徒のような怯えや憧憬が微塵もなかったから。

 対等に一人の人間として、仲間としてみてくれる。
 そんな当たり前のことがライルにはどうしようもなく嬉しかった。

 ――それにしても。

 ひとしきり笑ってゴウをみる。

「今日は遅刻しなかったんだな」

「おうよ。この日がくるのを待っとったからな。今日こそ決着をつけたるわいライル」

 ゴウはニッと笑って歯をみせる。岩でも噛み砕けそうな犬歯が剥きだしになった。

「ははっ。おまえとはなかなか決着つかねえからなー。一度きっちりケリつけときたいもんだ。出来ればそういう演習内容だと助かるんだけどな」

 ぼすっと軽く相手の腹にパンチをしてみる。屈強な腹筋ががっちりとライルの拳を押し返した。
 と、そこで視線を感じてライルはゴウの後ろをのぞきみた。

 目が合う。
 詰襟部分まできっちりと制服を止めた神経質そうな男子生徒がライルたちの様子をじーっとみていた。

「よおっ、ナキシン。元気か?」

 ナキシンは茶色のおかっぱ頭で、クラス〈Ⅰ〉のなかでもひときわ色の白い男だ。その為女生徒からははっきりいって羨ましいとの声もあがっている。

 ライルが手招きするとナキシンはゆっくりと近づいてきた。
 そして――。

「――ガッツ」

 拳をぎゅっと握ってみせて、抑揚の無い瞳でぽつりとそう告げた。

「おう、元気そうだな。昨日はちゃんと眠れたか?」

「ガッツ」

「そっか。俺なんかちょっと緊張して眠れなかったんだよな。さすがだぜ」

「ガッツ」

「ああ、いい勝負しようぜ。演習内容、どんなかな」

「ガッツ」

「そうか? 俺はやっぱり一対一で勝ち抜き形式がいいなー」

 会話をする。
 そのライルとナキシンの横でソフィアがゴウに耳打ちをしていた。

「ねえねえ。ずっと疑問だったんだケド、ナンでライルってナキシンと会話できるのかナ。ボクには『ガッツ』としか聞こえないんだケド」

「……ワシにきくなワシに」

 達観した表情のゴウを尻目にソフィアはナキシンを押しのけてライルに飛びついた。

「ねエねエ、ライルぅー」

「同じ手は食うかっ!」

 突撃を見越して、今度は華麗にかわしてみせるライル。ソフィアはすかされた諸手で自身の両肩を抱くと恨めしそうに彼を見返す。

「ナンでよけるかナァ。ボクはちょっと聞きたいコトがあっただけだヨ」

 いいながらもじりじりと寄ってくるソフィア。

「ききたいこと? いいぜ、おれに答えられることならな」

 ライルは次の攻撃に備えて油断なく身構える。

「えっとネ」

「おうっ」

「ボクと結婚しテ」

「それききたいことじゃね――――しっ!」

「イイ返事がききたいナーって意味だヨ、決まってるでショ」

「決まってねえよっ!」

 がうがうといがみあうライルたちを、リオンはやや離れたところでみつめていた。微妙な顔で、もちろん他人の振りをして。
 その無関心な眉が一瞬ぴくりと揺れる。現れた薄桃色のはね毛の人物をみて。

「――ちょーっと待ったぁ!」

 ライルたちの間にずいっと割り込んだのはカトレアだ。
 ぜえはあと肩で息をはき、額に浮かぶ汗を気にも留めずにソフィアをぐいぐいとライルから遠ざける。

「そーふぃーあー。抜け駆けは許さないってなんべんいったらわかんのよーっ」

「…………カトちゃん。今日ネ、晴れてよかったネ。ワタシ、ウレシイヨ」

 と、そんなことを、視線をそらして言う。口笛まで吹いている。

「カトちゃんいうなっ。あんた一人称まちがえてるわよっ」

 年下の小娘の言い分に「ちっ」と舌打ちして離れるソフィア。それをみてカトレアは、今度はライルへと振り返る。

「……ライル」

「…………あ、ああ?」

 真剣なカトレアの面持ち。ここまで走ってきたのか、頬を伝う汗も気にしていない様子だ。
 ライルはごくりと喉を鳴らして相手の言葉を待つ。

「ライル。あたしもこの際だから言わせてもらうけど」

「…………」

「あたしと……け、けっこ――」

「おれはまだ誰とも結婚の予定は無い」

「……………………今日ネ、晴れてよかったネ」

「なんで急にソフィアの口調でしゃべるんだ!?」

 先手をとられたカトレアは後ろでけらけらと笑うソフィアを憎々しく睨みつけて下唇を噛んだ。

「あいかわらずですね、あなたたちは」

 そこへライルたちの熱気に水を差す落ち着いた声音が聞こえる。

 いつからみていたのか、ライルたちに呆れた視線を向けている金毛の少女。
 ライルは鼓動がどくん、と揺れるのを感じた。

「アリア――」

 と、ライルが手をあげて声をかけようとしたところへ、

「アリアぁぁぁあああっ! 聞いてよっ、ソフィアったらね……」

 カトレアがアリアに飛びついていってしまった。

「…………」

 ライルは行き場を失った手をぶんぶんと振って「手首、調子……わりぃなぁ……」とかなんとかいって誤魔化した。

 するとナキシンが彼の肩に手をおいて、

「…………ガッツ」

 それだけいって小さく頷く。

 仲間ってすばらしい。
 その微妙なやさしさにライルはなんだか目頭が熱くなった。


「全員――整列!」


 直後、声が響き渡った。
 魔法で拡張されたその声は、騒がしく集うその場全員の生徒たちに余すことなく伝わった。

 声の主は剣士学校クラス〈Ⅰ〉担任のレイナルドである。
 いつのまに用意されたのか、こぢんまりとした高台のうえでレイナルドは声を発していた。そのすぐ横に声量拡張の魔法補助をしていたと思われるラサもいる。

 さらに高台の下には三人の教師の姿だ。

 クラス〈Ⅱ〉担任のバンク。
 クラス〈Ⅲ〉担任のフィーダ。
 クラス〈Ⅳ〉担任のキリアン。

 教師勢の登場に、生徒たちはすぐさま私語を謹んで高台の前へと整列していった。
 無論ライルたちも例外ではない。

「がははっ、いよいよか。腕がなるわい」

「はぁ~あ。ライルってばちゃんとボクの愛、感じたかナ」

「ガッツ」

 皆、口々に移動してゆく中、ライルはアリアの顔色がどうも優れないように感じた。カトレアもそれに気付いたのか、アリアの顔をのぞきこむ。

「ねえ、アリア。もしかして……」

「……心配にはおよびません」

 カトレアにならって声をかけるべきかもしれないな、とライルが衝動に足をすすめた瞬間。

「――ッ?」

 彼は背筋が凍りつくような視線を感じて、背後を振り返る。

 同じデザインの制服、同じ年代の男女。
 ライルの視界で波のように移動してゆく生徒たち。
 その大勢のなかで、ライルは悪意のこもった視線を送るたった一人を即座に見抜いた。

 他の人間がまったく映らないほどまっすぐに、その男と視線を交差させたのだ。

 ――まさか。

 ライルは一瞬、これが夢ではないかと疑った。
 なぜならば、その男がこの場にいるはずがなかったから。
 あのときと――昨年対戦したときとまったく同じ、クラス〈Ⅱ〉の制服に身を包んでいるはずがなかったから。

「…………」

 男はすぐに瞳を閉じて、移動してゆく生徒たちの波へと混ざっていった。
 ライルはただ呆然と、すれ違っていく生徒たちのなかで取り残されてゆく。

「ゼオード・グラシア…………どうして」

 彼の呟きは、この大勢のなかで誰一人にも届かなかった。


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