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マビノギ-Generation 0- 第二章05 第二十四話



          5


 レイナルドの開会挨拶はライルの耳に全く入らなかった。

 ゼオード・グラシア。
 ライルがいままで戦った人間のなかで、間違いなく一番強いと感じる相手。
 昨年の合同剣技演習での戦いはいま思い出しても身震いがする。

 あの勝利は偶然と奇跡の産物――。
 そう思うほどに、ゼオードは強かった。なにしろ剣技・魔法のどちらもライルより秀でている彼だ。ライル自身、とても実力で勝った気がしなかった。

「…………」

 あれから一年。

 隣に列をつくって立ち並ぶクラス〈Ⅱ〉を見る。
 離れているのか、ゼオードの姿はみえない。だが、じっとりと張り付いてくるような悪意の視線だけはいまも続いている。
 見間違いではない。そして昨年における剣技演習後のゼオードの妄執を知るライルには彼が決着をつけにきたのだということは想像に難くなかった。

 ライルが勝てたのはさまざまな要因こそあれどあくまで運だ。それは他でもない戦ったライルが一番痛感していたし、ゼオード自身よくわかっているはずだ。しかしそれでもゼオードは再戦を望んだ。
 ゼオードをそうまで突き動かすなにかがあるのは間違いない。だがそれは本人以外だれにもわかろうはずもなかった。

 やはり戦わなければならないのだろうか。
 冷たく――どこか寂しい瞳をした彼と――――。

「ライル」

 と、そこでライルは小さく名前を呼ばれていることに気付いた。
 アリアだ。

「……大丈夫ですか? ぼんやりしているように見受けますが。あなたらしくもない」

 視線は正面に向けたまま小声で話しかけてくるアリア。
 生真面目な彼女がこういった場で私語を使うことがライルにとっては意外だった。どうやら相当に思いつめた顔をしていたらしい。

「わりい。ちょっとな。でもそっちこそ、顔色よくないようにみえるぞ」

 意中の相手が隣にいたことにすら気付かなかったことを苦笑してライルはアリアをみた。陽の光を浴びて、よく手入れされた蜂蜜色の髪が白銀に照りかえっている。

「…………わかり、ますか」

 びくっと、僅かに目を見開いて、アリアもライルを見つめ返す。

「まあ、なんとなくな。低血圧ってのとは違うだろうし」

「さすがですね。あなたには隠し事ができそうもない」

 アリアが苦笑するのをみて、ライルは不謹慎にもどぎまぎとしてしまう。

 彼女はライルよりも三つ年下だ。
 その年下相手に彼自身、毎度のことながら情けないと思うのだが。
 どうしてもアリアのまえでは普段どおりの振る舞いができなくなってしまう。

 ただでさえ普段はこうして二人で話せるような機会が少ないというのに、いざチャンスがやってきてみればこれこのとおり、至極つまらない会話しかできない。気の効いた台詞の一つもいえればいいのに、といつもあとで後悔する。

 だからだろう。ライルはつい、ここぞとばかりに余計なことをいいたくなった。

「ほ、ほかのやつだったらわかんねえけどな。アリアが調子悪いってんならおれはすぐに…………」

「――しっ。どうやら今回のルールが発表されるようです」

「……………………うん」

 言葉一つであっさり撃沈されたライルの心などわかろうはずもなく、アリアは表情をひきしめて正面を見据えた。ライルも落ち込んだままそれにならう。


「――――『姫と騎士』。今回の合同剣技演習の内容はこれで行ってもらう」

 レイナルドが厳かに宣言した内容は、生徒たちに少なからず動揺を与えた。
 口々に「姫と騎士?」「知ってるか?」と言葉を交し合っている。

 それもそのはずで、過去の合同剣技演習の歴史上においてもそのような内容の演習が行われたことなど一度としてなかった。
 トーナメント形式やリーグ形式、バトルロイヤル形式などのわかりやすいテーマに比べて『姫と騎士』というテーマはあきらかに異質である。

「静かに。ルールについては私から説明するわね」

 魔法で拡張された声が、男のものから女のものへと変わる。
 台の上ではレイナルドに代わってラサが生徒たちを見下ろしていた。

「自己紹介はいらないと思うけど。今日の剣技演習をサポートする魔法学校のラサです、よろしく」

 ラサは小さく会釈して言葉を続ける。

「さて、剣技演習はクラス〈Ⅰ〉から〈Ⅲ〉まで、クラス〈Ⅳ〉を除いた三クラスの成績上位者各一〇名――合計三〇名が参加するのはもうみんなわかっているわね。『姫と騎士』ではその三〇名を一五組にわけてもらうわ。二人一組になってもらうっていえばわかりやすいかしら」

 ラサは微笑をうかべて説明を続ける。

 各組分けはランダムで行い、全員に①~⑮までの番号が割り振られた腕輪がはめられる。腕輪は赤と青の二種類で、赤の数字は『姫』、青の数字が『騎士』を示す。
 二人一組となった同じ数字のペア同士はそれぞれが『姫』『騎士』という役割を担う。


 役割――『姫』について。

 姫はそのペアの生命である。守るべき者を失うような無脳な騎士は不要。もしも姫がつける腕輪を砕かれた場合、そのペアの敗北となる。姫はペアの証である腕輪を死守しなくてはならない。加えて、姫は敵の腕輪を砕くこともできない。攻撃・防御といった行動は自由だが、決して敵の腕輪を砕いてはならない。うまく動いて騎士に攻撃のチャンスを与えることが重要である。


 役割――『騎士』について。

 騎士はそのペアの剣である。姫を守護し、襲い来る敵を全て排除しなくてはならない。騎士の腕輪は砕かれた場合でも敗北とならない。しかし一時間のペナルティが発生し、その場に拘束される。ペナルティ経過後は、腕輪は自動修復し、再び行動可能となる。つまり不屈の生命で姫を守り抜けるが、当然ペナルティの間は姫が無防備にさらされる為、倒されずに敵を倒すことが理想である。


 全生徒に共通していることは、腕輪配布後、魔法によって即座に試合場へ転送されるということ。そのため、お互いのパートナーをいちはやく発見して合流することが勝利の鍵となる。もちろん探し出すための駆け引きもまた重要だ。

「場所はトゥガルドアイル、ウレイドの森。森の地形は自由に使って構わないわ。私と魔法学校の生徒で結界を張ってサポートするから魔法攻撃なんかもガンガン使っていいわ。広大な森のなかでいち早く敵をみつけてすべての『姫』腕輪を破壊すること。つまり、最後に残った一組が優勝者よ」

「それってつまり、今期の優勝者は二人ってことですか」

 ラサの言葉の間を縫って、そんな言葉が飛ぶ。クラス〈Ⅲ〉の生徒だ。ラサは嫌な顔一つせず、首肯してみせる。

「ええ。最後に残った二人で勝負をしてもらう、なんてことは言わないわ。優勝は最後の一組である二人。ただし――」

 そこでラサは口の端をもちあげて不敵に笑う。

「この『姫と騎士』の開催期間は三日。開始時刻より三日間、参加者には森のなかで戦い続けてもらいます。その三日をもっても決着できず、最後の一組が現れなかった場合は今期の合同剣技演習の優勝者は無しよ」

 生徒たちのあいだでどよめきが起こる。

「静かに。説明は以上ね。質問があればどうぞ」

 ラサがそう締めくくると生徒たちは様子をうかがうようにお互いで視線を交わしあった。

「……ずいぶん穴だらけなルールだな」

 ライルの呟きにアリアは「ええ」とだけ頷いた。

「今のうちにいろいろ質問しといたほうがいいかもな」

 ライルたちが話す一方で他の生徒たちの質問があがった。

「魔法についてはわかりました。では剣はどうするのですか? 各自持ち込みでいいのでしょうか?」

 この質問はラサにとって意外だったらしい。

「いっけない! そうね、肝心の武器の説明を忘れていたわ」

 と、慌てて言葉を続ける。

「まず質問の答えね。武器の持ち込みは不可よ。参加者には全員腕輪と衣服以外、森に持ち込むことはできない。武器についてはそれぞれが森に入ってからフクロウ便で支給させてもらうわ」

 フクロウ便。
 伝書を伝えるフクロウはもっともポピュラーな配達手段である。

「人によって扱う剣に得意不得意はあるだろうから武器支給もランダムにさせてもらうわ。欲しい武器があれば相手を倒して奪いなさい。あと食事についても同様ね、フクロウ便で支給するからその点は心配しないで」

「質問でぇす。各ペア同士で協力するのはありですか?」

「構わないわ。各組同士が協力しあう形は『可能』とします。但し、たとえ協力したところで最後に優勝することができる組は一組だけ。これは決して忘れないことね。信頼しきって油断したところへ突然後ろからばっさり……なんてイヤでしょ?」

 ざわめきは徐々におさまっていく。皆、概ね知りたいことは質問されたらしい。
 そこへクラス〈Ⅱ〉からすらっと白い手が持ち上がる。

「わたくしからも質問がありますわ」

 マーシャだ。空いたほうの手で髪先をいじりながら言葉を続ける。

「まず腕輪とはどういったものなんですの? ランダムに組分け――とおっしゃいますけれどそれはどういった方法でお決めになるおつもりかしら?」

 ラサは傍らに立つレイナルドからてのひらに収まる程度の球を受け取って掲げた。

「このカプセルの中に腕輪が入っているわ。各自森の中へと入ったらこのカプセルを開けることで腕輪が現れます。腕輪が赤ならば『姫』、青ならば『騎士』となり、同じ数字同士でペアよ。そして腕輪となっている以上、必ず腕のいずれかに装着してもらうわ。隠しもったり、肌身から離すことは禁止よ」

「つまり腕に装備さえしてあればその箇所は問わないということですのね」

「そういうことになるわね」

「わかりましたわ、では最後にもうひとつだけ」

 マーシャは髪先から指を離して妖艶な笑みを浮かべた。

「腕輪を破壊すれば勝利。では逆に――腕輪以外を破壊したところで勝利にはならない、という風に解釈してよろしいんですのね?」

 悪意のこもったまなざし。
 ラサはこれまで絶やさなかった微笑から一転、口を引き結んだ。

「……ルール上、問題はないわ。身を挺して腕輪を庇うという行為も状況によっては必要でしょう。また相手の体力を奪わず腕輪だけを破壊するということも難しいでしょうからね」

 支給される武器は殺傷力をおとしてあるものの、直撃をうければ骨くらいは容易く折れる。それは攻撃魔法についても同様だ。場合によっては相手を著しく傷つけてしまうこともあるだろう。

 だがラサはマーシャの質問の意図を正確に見抜いていた。
 すなわち――たとえ相手に怪我を負わせても問題はないのだな、と。

 下唇を噛んでラサは言葉を続ける。

「失格となったペアはすぐにこちらから治療班をまわして速やかに森をでてもらうわ。わかっていると思うけど、必要以上に相手を傷つけたりはしないで。結界内は監視しているし、最悪、死に至るほどの怪我だと判断した場合はこちらから差し止めにはいるわ」

「結構ですわ。ありがとうございましたラサ先生」

 満足したのか、うやうやしくお辞儀をしてマーシャは引き下がった。

「他に質問はないわね? ではこれからこのカプセルを参加者に――」

「追加ルールがある」

 突然背後からかけられた声にラサはあわてて振り返る。

 ラサの言葉を遮って、台上にあがってきたのはバンクだ。
 クラス〈Ⅱ〉ワシ鼻の担任は、たるみきったお腹をさすって「失礼」と前にたつと魔法で声量を拡張しなくとも充分に大きい声をあげた。

「各自、ルールについては理解したと思う。だが既に気付いている生徒もいるだろうが、これでは明らかに公平ではない。特にクラス〈Ⅰ〉と〈Ⅲ〉ではその実力にも大きな隔たりがあるだろう。そこで――――」

 言葉を止めてにやりと笑うバンク。


「クラス〈Ⅰ〉の生徒には相応のハンデを背負ってもらう」


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