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マビノギ-Generation 0- 第二章12 第三十一話



          12


 ――まいったな。

 ライル・ラングルは気配を殺したまま眼下をみて小さくため息をする。

 いまライルがいるのは木々のうえだ。
 樹齢何十年にもなりそうな立派な木の上からあたりを探っていた。

「ゴウの野郎、頼むから頭をつかってくれよ……」

 力は野生の動物なみ、加えて知能まで動物なみときては始末におえない。
 いっそそのまま野生にかえったらどうなんだ、と失礼極まりないことまで考えてしまう。

 なんとか隠れて追撃をやり過ごしたものの、気づけば結構な時間が経過していた。
 その証拠に、途中でみかけた何人かの生徒はパートナーと出会えたのだろう、既にペアで行動している者も少なくなかった。

 ライルは腕輪をみる。
 与えられた役目は『姫④』。
 パートナーとなりし『騎士④』は果たして誰なのか。

 ゴウでないことは明らかとなったが、それでも候補はまだ八人もいる。

「アリア……だいじょうぶかな」

 ぽつり、とそんなことをつぶやく。

 思いがけない演習内容。
 加えて――厄介なハンデつきだ。

 説明では体力・魔法力が半分になると言われたが、実際には消耗量が二倍である。
 そのことにすぐ気づいたライルはこうして身を隠し、体力と魔法力の回復を待っていた。


 はたしてほかのみんなは――特に顔色が優れないようにみえたアリアはだいじょうぶだろうか?



 しかしライル自身、いつまでもこうしているわけにはいかなかった。
 役目が『姫』である以上、自分が撃破されない限りパートナーともども失格とはならないが、合流ができなければ不利であることに変わりはない。

 なにしろ敵から一方的に攻撃をうけるだけで反撃が許されていない。
 ルール説明にはなかったが、おそらく『姫』が誤って相手の腕輪を撃破してしまった場合、その『姫』は失格になるのだろうとライルは読んでいる。

 すなわち、パートナーである『騎士』も失格だ。
 しばらく隠れたまま敵の数が減るのもまつのも一つの手ではあるが、それも『騎士④』に出会えてからだ。

「…………」

 辺りを探る。
 そして周囲に誰もいないことを確認してから、ライルは音もなく木の上から地面に降り立ち、そのまま小走りに疾走する。

 とにかくいまはクラス〈Ⅰ〉の仲間と出会い、互いの番号を確認するのが優先だ。
 アリアのこと、そしてゼオードのこと。

 気になることは山ほどあったが、いまはできることをやるしかない。
 それが、大好きなばあちゃんの教えでもある。

「ん……?」

 それほども足をすすめていないところでライルは立ち止まる。

 違和感を覚えたからだ。
 周囲には誰もいない。
 だがちりちりと鳥肌立つような気配を感じる。

 ゼオードのような明確な悪意とはちがう、あえていうならば何かを探ろうとしているような意思。

 それはあくまで漠然とした勘だ。
 だがライルはそういうときの自分の勘はまよわず信じることにしている。

「誰だ。だれかいるんだろ?」

 声をかける。

「…………」

 返答はない。

 ライルの錯覚だと思えるほどに、辺りは閑散としている。
 唯一の音は風に葉を揺らす木々だけだ。

 ざわざわざわ、と風にゆれる枝葉。

 ライルは動かない。
 ただ茂みの奥、その一点だけを見つめ続けた。

 すると――――。

「……アーア、やっぱりライルだけはやり過ごせないカ。それともボクの隠れ方が甘いのかナ」

 ため息と同時にゆっくりとでてくる影。
 それは紛れもなくライルに視線を送り続けた人物だ。

「ソフィア」

 名を呼ばれた少女は愛くるしい仕草で瞳をうるませた。

「会いたかったヨ、ライルゥ。ボクね、一人で心細かったんだァ。ねえ、一緒にいようヨ」

 ライルは腰のロングソードを遠慮なく引き抜いた。

「チョ……ナンで剣抜いちゃうノ? こんな美少女ガ寂しサを訴えているのニ」

「……ゴウじゃねえけど、おまえも本当自分がみえてないよな。さみしいとかそんなこと言うタマか」

 両手をくねくねと動かすソフィアに対してライルは警戒心をいっそう強めた。

 というか、こういうときのソフィアにかかわると決まってろくな目に遭わないのだ。

 ばあちゃんの教えではないが、経験からくる嫌な勘である。
 ライルはこういう自分の勘を心の底から信じる。

「アーア。ひどいこというんダァ。ボクがなにしたっていうのサ」

「これからするんだろ」

 ライルは油断なくソフィアをにらみつける。

 ソフィアの腰にささったままの剣はグラディウスだ。

 刀身はロングソードよりも若干短いが、頑丈な太い刃と安定した重さでいずれの剣よりも扱いやすい。
 ライルがもっとも得手としている剣の一つである。

「…………」

「…………」

 ソフィアもライルもお互い言葉なく相対する。
 やがてソフィアがゆっくりとその諸手をあげて降参の意を表した。

「ハいハい。わかったヨ、このまま見つめあっていても仕方ないシ、おなかを割って話そうヨ、ライル」

「…………」

 ライルは顔をしかめるが、それでもソフィアの言葉にロングソードを剣鞘へと納めた。

「ハッ。モしかしテ……ライルってバ、ボクと見つめあっていたいカラわざとそんな態度をとったトカ!」

「前向きだな、おい! はっきりいってちげえよっ!」

 演習中だというのにソフィアの態度は普段と微塵たりとも変わらない。
 ライルも度胸というものを人並み以上には持ち合わせていたが、眼前の少女の胆力には到底及ばないと思っている。

「マーたマた。恥ずかしがらないでもいいヨ、ボクはいつでもウェルカムさ」

「……そりゃどうも。で?」

 ライルは腰に手を当てて話の続きを促した。

「ツレない返事だヨ~。まあいいヤ、じゃあさっさと確認しようカ」

 無言で首肯するライル。

 この状況で互いに確認することなど一つしかない。
 すなわち――目の前の相手は敵か否か、である。

 ソフィアは制服の袖をまくって腕輪をライルのほうへと向けた。
 ただし、番号がみえる側はみせないようにして。

「……『騎士』か」

 ソフィアの腕輪は青だった。
 同様にライルも距離をとったまま腕輪をかざしてみせつける。

「ワオ。赤ってことはボクたちパートナーな可能性あるンだネ!」

「そうなるな。だとしたらおれもありがたいんだが」

 早期にパートナー同士が合流できればこれ以上の強みはない。
 そう思って発言したライルの言葉は――。

「キャー! ライルってばライルってばライルってば! ボクとズット一緒にいたいってことなんだネ! 決して離れたくないってプロポーズなんだネ! いいヨ、ボクはいつでも傍にいるかラ! イやんこの『ライル姫』!」

 ――当然こういう誤解を生んでしまった。

「違ッ……はやくパートナーみつけなきゃ勝てねえだろうが! つーかライル姫いうなっ」

 騎士ソフィアはライル姫にほだされてしまった。

「ハア……ボク幸セ」

「この状況でうっとりするお前の神経すごいな!」

 ソフィアはその後もキャーだのいやんだのと騒ぎ立てたあげく、ようやく話を本腰へと戻した。
 ライルのほうはといえば、もうなんだかすっかり憔悴しきっている。

「……デ。じゃあそろそろ番号の確認しようカ。これだけオトメ心をもてあそんだんだモノ、マさか違う番号だったりしたラ――」

 ソフィアはにっこりと微笑み、

「――殺すヨ」

 そんなことをいった。

 ライルはもう、ガクガクと震えた。

「じゃあボクから見せるヨ。ボクの番号は――」

 刹那。

「あぶねえ!」

 かざしたソフィアの腕輪めがけて飛来する火焔弾。

 ライルはいっそくとびにソフィアへ組み付いて押し倒した。
 そのすぐ背後で火焔弾が爆裂する。

「くっ……」

 時間をくいすぎた。

 顔をあげたライルの背後で炸裂した火焔弾の熱風が肌をなでる。

「ソフィア、話はあとだ。いまはここから――」

 とっさに。

 本当に偶然、とっさに、ライルは左腕をひいた。

 そしてそれが救いとなる。
 その直前まで左腕があった場所を、刃が煌いた。

「な――――――――ッ!」

 あわててソフィアから飛び退るライル。

「……ちェー。ウまくいったと思ったのニなァ」

 押し倒された形から、ゆっくりと身体を起こして立ち上がるソフィア。
 その手にはいつのまにか抜き身のグラディウスが握られている。

「ソフィア、おまえ……」

「ゴメンねェ、ライルゥ。ボクの為ニ……死・ん・デ」

 ぺろりと舌を出したソフィアは一気に踏み込んでくる。

 ライルは横なぎの刃をかわして入れ違いに距離をとる。
 しかしそこへ思いがけず、掬い上げるような刃が迫った。

「くっ……」

 ライルはロングソードを引き抜き、足元への一撃を受け止める。

「ナキシン!」

 刃の主――ナキシンは抑揚のない瞳のまますぐにライルから距離をとってソフィアの傍らに立つ。

「アハ、ヤるナァ。サすがボクのダーリン。でもナキシン、足止めはいいけど腕輪は狙っちゃダメだヨ。キミが反則しちゃったラ、ボクまで失格ニなっちゃうんだかラ」

「……ガッツ」

 ソフィアの言葉に、ナキシンは小さく頷く。

「ソフィア、ナキシン……おまえら……!」

 ライルはナキシンの手首にはまった腕輪をみる。

 赤――『姫』だ。
 そしてソフィアとのやり取りから彼女らの関係は問うまでもない。
 ソフィアは妖艶に微笑み、青の腕輪を今度こそライルへと向けた。

「⑤番……」

 その呟きはナキシンにも「ガッツ」と首肯させる。

 ライルの腕輪は『姫④』だ。
 つまりは敵同士ということになる。

「ナキシンニお願いしてウまく嵌めたつもりだったンだけどナァ。デもいいヤ、ライルの愛を感じちゃっタシ。さすがにナキシンの火焔弾〈ファイア・ボルト〉にはヒヤヒヤしたけどネ。ライルならキット助けテくれるっテ信じていたかラ」

「…………」

 渋面のまま手元のロングソードをくるりとまわして構えなおすライル。

 相対する二人にしばし緊張が走る。

 だが饒舌なソフィアは気付かなかった。
 ライルは既に小声で呪文の詠唱を終わっている。

「火焔弾〈ファイア・ボルト〉っ!」

 足元に向かって放つと同時にロングソードを腰におさめて大きく退く。

 着弾した火焔弾は土砂と落ち葉を巻き上げて激しく地を揺さ振った。

「ライルゥッ!」

 突風から顔面を守ってソフィアが叫ぶ。

「パートナーみつけたら相手してやらあっ! おまえらもそれまで負けるンじゃねえぞ!」

 ライルは大声で叫び返し、煙幕の奥へと姿を消す。
 やがてソフィアの視界がひらけたとき、ライルの姿はなかった。

「くッ……甘いヨ。逃がさなイ、ライル――――」

 腰を屈めて追う姿勢をとるソフィア。だが横合いから手が伸びてきて制止されてしまう。

「何サ、邪魔しないでヨ、ナキシン!」

「――ガッツ」

 突っかかるソフィア。

 しかしナキシンの表情は真剣そのものだった。
 いや、抑揚のない瞳を見開いて、ライルが去ったほうとは逆に視線を向けていた。ぼんやりとしている普段の表情が強張っている。

「ナキシン……?」


 そしてソフィアも気付く。

 いつのまにか自分達に、すさまじい殺意の視線が向けられていることを。



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