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マビノギ-Generation 0- 第二章15 第三十四話



          15


 早朝――。
 フクロウ便が支給してきた袋を受け取ったライルは即座にその場を移動した。

 おそらくフクロウ便による支給は一律同時にだろう。
 フクロウ便の動きを見て、敵に位置を知られてしまう可能性を減らしたかった。

「…………」

 果たしていま、どれほどの生徒がこの森に残っているのだろう。

 ルール――『姫と騎士』。
 残りの期日はあと二日だ。
 一刻もはやく自分の『騎士』をみつけなければ――。

「!」

 ライルは一瞬、見間違いかと思った。
 だが、足を止めてその位置に戻ったとき、自分の目に映ったソレが見間違いではないということを知らされる。

 人が倒れていた。
 それも、ライルにとってはごく身近な見覚えのある人物――。

「ナキシンッ……ソフィア――――ッ!」

 慌てて走りよる。
 倒れていたのはナキシンだけではなかった。
 折り重なるようにソフィアが下敷きとなっている。

「おいッ……おいって! 頼むから返事してくれ!」



 ソフィアとナキシンのペア。
 その狡猾な作戦にひっかかりかけたのはつい昨日のことだ。

 だがライルは今、これが罠である可能性を一切考えていなかった。

「なんで……こんな…………」

 ソフィアの両腕、両足は消し炭のように赤黒く染まっていた。ナキシンに至っては、さらに左腕がありえない方向へと捻じ曲がっている。

 やりすぎともいえるくらいの完膚なきまでな再起不能。

 ライルは治癒光を試みるが、とてもではないが短時間でどうにかなるとは思えなかった。加えてハンデのせいで使用できるマナにも限りがある。

「おいッ……おいっ! ラサ先生……! 聞こえてンだろ? 結界内で起こったこと、アンタなら全部わかっているはずだろうが! 返事してくれ! なんだってこいつらを助けてやらねえんだ!」

 中空に向かって声を張り上げるライル。

 ほどなくして、返事が返ってくる。
 それはひどく冷淡な言葉だ。


『――ルール上。腕輪を破壊されて失格とならないペアにこちらから関与することはできないわ』


 ライルはそれぞれの腕輪をみた。

 ソフィアの青の腕輪。
 ナキシンの赤の腕輪。

 ⑤と描かれた対となる腕輪は、そのどちらもがまったくの無傷だった。

「どういう――ことだよ……?」

 腕輪は無傷。
 それではまるで腕輪そのものよりも、ソフィアとナキシンを傷つけることこそが目的のようではないか。

「…………」

 徐々に治癒光の輝きが薄れてゆく。

 イウェカのあがっている夜だったならば。
 或いはハンデさえなければ。

 みるみる力を失っていく治癒魔法に、ライルは拳を強く握り締めた。

「ちくしょう……ちくしょう…………」

 ――どうすればいい。

 腕輪を壊す。
 そうすれば二人とも医療班が助けてくれるだろう。

 しかし。

「…………ちくしょう」

 ライルの腕輪は赤。

 そして赤である『姫』は敵の腕輪を砕くことを許されてはいない。
 もしもそれを破れば――――。

「…………」

 失格。

 自分だけでなく、まだ見ぬ『騎士④』のパートナーまで。
 失格となってしまう。

「…………関係、ねえ」

 拳をぎゅっと。

 爪がくいこむほどに強く握り締めて、ライルは腰のロングソードをゆっくりと抜いた。

 仲間が傷ついている。

 いつも楽しそうに笑いあっていた仲間。
 ライルにとってかけがえのない友達。

 その仲間が傷ついている。

 傷の具合からみて、たとえ放っておいたところで死んだりはしないだろう。よしんば死ぬような危険を含めば、その前にラサが失格と判断するだろう。

 でも。
 それでも。

「…………わりい、騎士④の誰か」

 ライルは放っておけない。
 仲間が傷ついているのを見過ごすことなどできない。


“――ライル。いいかい、いつだって自分の信じたことなら、思いっきりやりな”


 祖母の言葉を思い出す。

 そしてライルはナキシンの手首、『姫⑤』の腕輪に剣を突きいれる。
 いや、突き入れる直前で、

「待ッ……テ」

 止められる。
 弱々しい、普段の彼女ならば決してみせないようなソフィアの表情に、ライルは動きを止めてしまう。

「ソフィア……待ってろ、今ッ!」

「ダ……メだヨ……それハ……ダメ…………」

 ソフィアは懸命に声をしぼり出していた。その表情をみて、ライルは一層決意を固くする。

「……無理だ。こんな状態のおまえらをほっとけるわけねえだろ!」

「…………剣。剣を……貸しテ…………」

 息も切れぎれにライルの手――ロングソードの柄に手を伸ばすソフィア。黒ずんだ指先が痛々しい。小指と薬指は爛れて張り付いている。

「…………」

 ライルは重ねるようにソフィアの手にロングソードを握らせると、その意図を問おうと、口を開きかけた。

「ソフィア――――」

「……えイ」

 ぱきん。

 剣が振るわれる。
 いや、振るわれるというよりはただだらしなく振り落とされたというところか。
 だが、腕輪を砕くにはそれで充分だった。

「なっ……」

 ライルは驚きの声をあげた。
 なぜなら、砕かれたのはライルの腕輪ではなくナキシンの腕輪だったからだ。

「ソフィア……!」

「エへ……『騎士』が自分の『姫』の腕輪を砕いちゃいけないってルールハ……なかったヨ……」

 瞬間、既に待機していたのか降り立った魔法学校の生徒達によってソフィアとナキシンは担架に乗せられる。

「ライルゥ――……」

 去り際に、ソフィアが口を開く。

「ごめんネ、ボク……負けちゃったヨ……負けるなヨって……いっテくれタのに、約束……守れな……ッ……」

 どくん。

 鼓動が揺れる。
 ソフィアの顔をみて揺れる。

 ライルにとって、ソフィアが泣くことなど絶対にないと思っていたから。

「ソフィア…………」

 ライルの言葉は届くことなく、ソフィアたちは転送魔法であっというまにその場を消えてしまう。
 だが、ライルは今が合同剣技演習の最中だということすら忘れて呆然とする。

 誰がやった? なんのために?

 心の中でひたすらに問いかける。

 ルールの上で失格となるのとはわけが違う。
 そこにあるのは明確な悪意だけだ。

 ただ傷つけることだけを目的とするそんな手段、決して許されることではない。

「……いったい誰が」

「――オレだ」

 あて先のない言葉に返答がきたことに驚き、ライルはとっさに身構えた。

 いつのまにか、傍らにたっていた人物に警戒心をこのうえなく強めて。
 クセのない流れるような銀髪。

 片目を完全に覆った長髪は青ズボンの剣士学校の制服とは妙にアンバランスだった。

 残された片方の瞳は切れ長で、射抜くようにライルをとらえて離さない。

「ゼオード……グラシア……ッ」

「ひさしいな、ライル・ラングル」

 ゼオードは起伏のない声で答える。

「てめえ……ッ……てめえが……ソフィアを……ナキシンを……!」

「そうだ。なにを憤っている。これはそういう『ゲーム』なんだろう」

 ゼオードは左手首の腕輪をライルに示し、指先で弾いてみせた。
 青――『騎士⑧』と描かれたその腕輪を一瞥するも、ライルの怒りはおさまらない。

「ふざけんなッ! 『ゲーム』だと……あんな……あんなもんが演習であってたまるか! 二人の腕輪をさっさと砕けば済んだ話だろうがッ! てめえにそれができなかったとはいわさねえぞ! なんだって無意味に傷つけやがった!」

「さてな。……どうした、オレのやり方が気に入らないならその腰の剣を抜いてさっさとかかってきたらどうなんだ? 吼えるだけではなにも変わらんぞ」

 ゼオードは冷淡にそう言い放つ。
 彼自身、剣を抜いておらず自然体のままだったが、その身のこなしには隙がない。

「…………」

 挑発されるまま、カッとなったライルは腰の剣柄に手を伸ばそうとして――かろうじて踏みとどまる。
 剣柄に触れるか触れないかのところで、ぎゅっと拳を握った。

「……無理だ。おれは『姫』だ。おまえと正面から戦うことはできねえ」

 どんなに相手が憎くとも、『姫』である以上、正面から戦うことはできない。

 しかしゼオードにとってこの答えはある程度予想していたものだったのだろう。
 顔色を変えずにライルを見やった。

「それこそ関係ないな。こんな『ゲーム』のルールなどにどれほどの価値がある。貴様がオレのやり方を由としないならその剣で正せばいい。それだけのことだろう」

 それだけのこと。
 そう告げるゼオードの言葉には一切の迷いがなかった。

 ライルは瞳を閉じて――首を左右に振る。

「……昔、聞いたことあったよな。おまえはどうしてそんなにおれと『戦うこと』にこだわるんだ。ただおれが憎いってンならなんで不意打ちでもなんでも仕掛けてこねえ」

 すると、ゼオードの表情が爬虫類のように歪む。
 それが彼の笑いだと気付くのに、ライルは少しの時間を要した。

「覚えている、その言葉の続きは確かこうだったな――」


“――むやみやたらに喧嘩を売るなんて弱い男のすることだ。おれはそう教わって生きてきた。だからおれはおまえとは戦わない。そんな弱いやつとは戦いたくねえ”


 覚えている。
 ライルもしっかりと覚えていた。

 それはゼオードが退学処分と決まった日に、最後に交わした言葉だったから。

「ライル・ラングル。それが誰の教えだかなんだか知らないが――」

 ゼオードは氷の瞳でライルを見下す。

「――くそくらえだ」

「てめえ……ばあちゃんを悪くいうんじゃねえッ! ぶっ飛ばすぞ!」

 ゼオードの言葉は侮辱だ。
 それもライルにとってかけがえのない祖母への侮蔑の言葉。

「ふん。その気になったか?」

 ゼオードの言葉にはっとなる。

 知らず腰の剣柄に手をかけていたらしい。
 あわてて首を振るライル。

「違うっ。はっきり言っとくぞ。おれは『姫』だ。てめえとなんざやる気はねえ」

 ゼオードは一瞬、鋭くライルを見やった。
 が、すぐに元の冷たい表情へと戻ってライルに背を向けて歩き出した。

「な……待て、おいっ! 話はまだ終わってねえぞ!」

 挑発するように腕輪をかざすライル。しかしゼオードは振り返ろうともしない。

「興味ないな。貴様がオレに『喧嘩』を売りたくなったらいつでもかかってこい」

 肩越しに告げる言葉は、ライルに対する痛烈な皮肉だ。

「ッ……! ざけんなっ!」

 ライルはその背に向かって思い切り怒鳴り返した。
 


 早朝、結界内全域に現在までの失格番号が発表されたのはそれからまもなくことだった。



 合同剣技演習――『姫と騎士』

 ⑤番ペア――クラス〈Ⅰ〉ソフィア、ナキシン組、失格。
 ⑪番ペア――クラス〈Ⅲ〉男子生徒、男子生徒組、失格。
 ⑭番ペア――クラス〈Ⅲ〉男子生徒、男子生徒組、失格。

 残り――八組。



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