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マビノギ-Generation 0- 第二章16 第三十五話



          16


「七班、帰還しました。待機中の一一班、交代急いでください」

 朝。伐採地キャンプでは魔法学校の生徒達がせわしなく動いていた。
 夜通しで演習のサポートにあたっていた生徒たちと入れ替えに、今日一日を森の中で過ごすことになる生徒たちは面持ちもそれぞれに準備をすすめている。

 一方で、ラサは失格として運ばれてきた生徒たちの治療にあたっていたが、ついぞ今運ばれてきた生徒の容態には思わず顔をしかめた。

「……ひどいわね。応急処置、急いで。終わったら村まで運ぶわよ。私達じゃ手に余るわ、ディリス――ヒーラーの家まで運んで診てもらいます」

 ラサは決して得意ではない治癒光を試みながら生徒達に指示を飛ばす。

 クラス〈Ⅰ〉のソフィアとナキシン。

 真っ黒に炭化した手足はみるからに痛々しい。
 幸い内部深くまではダメージがなさそうだったが、専門のヒーラーであるディリスでもこれは治療に時間がかかるだろう。

 特にひどいのはナキシンだ。
 捻じ曲がった左腕は、三ヵ所も骨折している。

「男の子ね……えらかったわよ、ナキシンくん」

 一部始終を見届けていたラサは、ナキシンがソフィアを庇ってこれだけの傷を負ったのだとしっていた。



「――ディリス先生がじきにやってくる。昨夜のうちに私がお願いしておいた」

 声をかけてきたのはレイナルドだ。

「レイナルド先生……お気持ち、お察しいたします」

 声音こそ普段どおりだったが、その沈鬱な面持ちがレイナルドの生徒たちを思いやる気持ちを強くあらわしている。

「……やったのはゼオードですな。恐れていたことが現実となってしまった。私のせいです」

 しゃがみこみ、傷ついたまま眠る生徒たちの表情を覗き込むレイナルド。

 かける言葉がみあたらない。
 ラサには無言のまま治癒魔法に専念するほかなかった。

 そこへ、まったく空気を読まない強気な声が割り込んでくる。

「へえ。大層な傷ね」

 エリネだ。
 彼女は嫌そうな顔を浮かべるラサを無視して炭化した傷を観察した。

「雷光弾〈ライトニング・ボルト〉……か。わざわざ両の手足を狙うだなんて、使った人はさぞ魔法に自信があるみたいだけど。まだまだね」

 傷口にさわって確かめてからエリネはちいさく微笑む。

 その不謹慎な態度に抗議しようとしたラサは、次の瞬間きょとんとしてしまう。

「エリネちゃん……なにしているの?」

 まぬけにもそんなことをきいてしまう。

「なにって……治癒光〈ヒーリング〉ですよね。せっかくですから手伝います」

 木の棒――ではなく、治癒光に特化した杖をコートから取り出す。コートの内側にはまだ何本か毛色の違う杖がささっていた。

「…………」

 そして詠唱。その速度たるや、思わずラサもみとれてしまったほどだ。
 だがもっと驚いたのはソフィアとナキシンを同時に治癒していることである。

「パーティヒーリング……」

 範囲治癒光。

 周囲の人間を同時に治癒するヒーリングの高位版だ。

 無論、一人一人を癒すよりは効率が落ちる為、習得はしていても実際に使用するヒーラーは少ない。
 加えて、通常の治癒光よりも遥かに扱いが難しく、ある程度の魔法知識と魔力補助の触媒がなければ使いこなせない。

「範囲治癒光〈パーティヒーリング〉は私もまだまだ未熟ですから。ボルト系はおおむね極めたんですけどね」

 エリネは平然とそんなことを言う。

 ようするに習熟の特訓にちょうどよいといったところか。
 やや不純な動機ではあったが、それでも彼女の申し出はありがたい。

「ありがとう、エリネちゃん。それにしても……意外だったわ。昔は治癒魔法なんて私には必要ないですーなんていっていたじゃない」

 そんなラサの言葉にエリネはふっと息をもらす。

「考え方自体は変わってないです。いまだって別に必要ないと思っていますから。怪我をしなければ治癒魔法だって出番がないんですよ」

 あっけらかんという。

「つまり、あなたは怪我をしないのね?」

「当然です。万が一したところで、自分で自分に治癒光〈ヒーリング〉するほどバカじゃないですから。素直にポーション飲んで包帯巻いたほうがマシですよ」

「じゃあ、お友達が怪我しちゃった場合はどうするの?」

「昔いいませんでしたっけ? 友達なんて必要ないですから、私」

 ラサの問いかけにも、エリネはまるで動じない。
 そういうことをいう人間に限って心のどこかでは友達を求めている――という俗説がある。誰でもないラサ自身もそう思ってエリネに話したこともあった。

 だが。

「友達っていうのは対等な関係でこそ成り立つものでしょう。じゃあ私と対等な力をもった人間なんて存在しない以上、友達ができることだってないじゃないですか。必要なことはすべて一人でできますしね」

 エリネはにっこりと笑う。

 作り物でもない、かといって屈託のない笑みというわけでもない。
 それは単純に己の力を信じるという自信からくる笑いだ。

 一人で充分。

 決して他の何者にも濁されることのない強いまなざしが、ラサすらも気後れさせてしまう。

「……ますますわからないわね、じゃあどうして治癒光〈ヒーリング〉を学んだの? 昔はあれほど習うことを嫌がったじゃない」

「学んでないですよ。本を読んだらすぐできるようになりました。一応習得しておけば魔法力の底上げにはなりますから。実際つかったのは今が初めてですよ」

 エリネの範囲治癒光。
 その眩く暖かな光源はとても今初めてつかってみたものとは思えない。
 彼女の父もそうだったが、カシュート家というのは代々優れた魔法の家系だ。

 その力のほんの根幹を再確認して、ラサは感嘆の吐息を漏らし――やがて視線を森のほうへと向ける。

「ライル君……」

 これ以上、同じような目に遭う生徒がいないことを願って。



          †



 ――なんだよ、なんなんだよ。

 駆ける。
 森を駆け続ける。

 慣れたもので、すっかり獣道を走ることになれてしまった自分に驚きながら、ライルは走る。

 そして思い出す。
 どうしてこんなことになった?
 ゼオードとの邂逅にもやもやとしたものを抱えたまま、自分の『騎士』を捜していたはずなのに。

『みつけたぞライル・ラングル。覚悟っ!』

 目の前に現れた鏡あわせのような瓜二つの女の子。
 クラス〈Ⅲ〉の制服に身を包み、フルートショートソードで切りかかってきたのだ。

 合同剣技演習。ルールは『姫と騎士』だ。

 だから、少女たちが『姫』であるライルを襲ってくるのも追いかけてくるのも無理はない。
 無理はないのだが。

「なんなんだよ、あいつらは! 様子が普通じゃねえぞっ!」

 怖かった。

 戦いが、ではない。
 双子の鬼気迫る表情だ。

 まるで親の仇のような目つきで斬りかかってくるのだ。
 どちらの少女もやや切れ長の三白眼だったが、その目がさらに吊りあがっていた。

 はっきりいって怖い。

 それでなくてもライルは、

「くっそ、意味わかんねえ……これだから……」

 女性が苦手だった。

 きらいじゃなくて、にがて。

 情けないこととは思う。
 だが祖母の教えのことごとくは、男は女を大事にしろというところからきている。
 大事にやさしく、腫れ物のように扱って生きてきたらいつのまにか苦手になっていただけの話だ。

 もてないわけでもないのに、いまだ意中の女の子一人に気持ちを伝えられない辺り、ライル自身、自分のそんな性格にがっかりしないこともない。

「なんとか、まいたか…………?」

 息を小さくきらして、ライルは周囲をうかがった。
 どうやら追っ手はないらしい。

「ふう……」

 木にもたれて大きくため息をする。
 そして考える。

「おれ、あいつらになんかしたのかなあ」

 双子。
 クラス〈Ⅲ〉に凄腕の双子がいるという話はきいたことがある。

 だが、教室がある階層の違いからも話す機会はなく、実際に会ったのはさっきがはじめてなはずだ。
 少なくとも、あんな顔で追いかけられる云われはない。

「――ッ!」

 刹那、咄嗟にロングソードの柄を引いたところへ刃が叩きつけられる。
 その衝撃に流されるまま体勢をたてなおすライル。

「ちっ」

 舌打ちしたのは男子生徒だ。
 クラス〈Ⅲ〉のズボンはそれまでの激戦を潜り抜けてきた証なのだろう、土砂にすすけていた。

「油断するな、ライル先輩はつよいぞ」

 その傍らにたつのも男子生徒。

「…………」

 ライルはロングソードをゆっくりと構え、対峙する。
 対して二人の男子生徒の得物はどちらもクレイモアだ。

「自分はっ『騎士⑬』ですっ」

「自分は『姫⑬』ですっ」

 口々に身分を明かす二人。

「「お相手おねがいしますっ」」

 ぺこりと頭をさげて、すばやく斬りこんでくる。

「えっ、あっ……いやこちらこそ……?」

 はきはきとした二人の態度に戸惑いつつも後ろ足をひいて正眼の構えでこれを迎え撃つ。

 まず切り込んできたのは『騎士』と名乗った少年のほうだ。
 真っ直ぐにライルの腕輪めがけて剣を振り下ろす。

「ん」

 ライルは切っ先を持ち上げて防ぐ。

「でやあああああ」

 今度は『姫』の少年が袈裟がけに剣を振るった。

「ほい」

 これも刃を返して防ぐ。

 迷いのない、純粋な剣筋が次々と展開されていく。
 習ったことを忠実に再現しているのだろう、ライルはそれらをやすやすと受け止めていく。

「ちぃ――――ッ!」

「おちつけ、先輩は『姫』だ、手出しはできない」

 互いを鼓舞し、連携を重ねる少年たち。
 それをみてライルは、

「ほほえましいなぁ……」

 なんてことを思ってしまった。
 自分にもこんな頃があったけなー、などと思い出しながら。

「先輩!」

 呟きがきこえたのか、憮然とした表情で『騎士』の少年が剣撃を叩き込んできた。

「先輩……自分ら真剣ッス。なまいきだと思いますけど、先輩も真剣に相手してほしいッス」

 ぎぎぎ……と刃を押し返しながら、気持ちを吐露する少年に、ライルは薄く笑った。

「先輩!」

「いや……わりい。別におまえらをばかにしているワケじゃねえんだ」

 刃を返して押しのけ、斬りかかってきた『姫』の少年の一撃を受け流す。そのまま軽く手を振って、並び立つ二人の少年に相対した。

「なんかさ、おれも入学したての頃はおまえらみたいだったなーって思い出しちまってさ」

「先輩が……自分らと同じッスか?」

 ライルの言葉をきょとんとみつめあって聞き返す後輩たち。

「おうっ。だからなんかおまえらみていて嬉しいやら恥ずかしいやらよ」

「先輩は昔から天才だったって」

「ンなこたねえよ。全然、もう本当だめだめだった。いま思えば素人もいいとこだったな」

「信じられないッス」

「え。いや、そういわれちまうと返事に困るぞ」

「でも」

「ん……?」

「光栄ッス。いきます」

 ぺこりと頭を下げて、少年たちはそれぞれにクレイモアを構えなおす。

 森という地形においては両手持ちで大振りな刃のクレイモアは有利よりも不利に働く場面が多いだろう。
 ライル自身、ロングソードの刃渡りや全体の長さを考慮して振るっている。もしも何も考えず気を抜けば、森の枝葉や蔓にとらわれて満足に振るうことなどできなくなる。

 そんななかを、いくらペア揃っていたとしても互いにクレイモアという長物でここまでの戦いを切り抜けてきた少年たちは、クラス〈Ⅲ〉と侮っていい存在ではない。

 ライルは気を引き締めて、少年たちを迎え撃つ。


 ――はずだった。


「ッ……うわああぁぁあああああああああッ」

 突如、『姫』の少年がクレイモアを落としてその場にうずくまった。

「なっ……」

 ライルが呻きをもらした瞬間、足元にどさりと何かが落ちる。
 さして重量を感じさせない音。
 地面に落ちる枯れ葉が、その場に落ちているモノと色の差異を明確化し、現実のものであるとライルに知らせる。

「腕……?」

 落ちてきたのは『姫』少年の右腕だ。
 丸太かなにかのようにざっくりと切り落とされたその断面からは、じわじわと赤い染みがあふれ出して地を濡らす。

 一瞬呆然とした頭をふり、ライルはその腕を拾いあげて少年に駆け寄った。

「おい、しっかりしろ! 大丈夫だ。すぐ治癒光〈ヒーリング〉をすればくっつくからよ」

「ああああああああああああ痛いっ……痛いぃぃ…………」

 狂ったように暴れる少年を押さえつけて、ライルは治癒光を試みる。
 大丈夫と言ってはみたものの、腕輪のハンデを背負っている今の状態で腕をくっつけるほどの治癒力を放てる自信はなかった。

 ――なぜ?

 どうして?

 意味がわからない。
 ライルの目の前で少年たちがそれぞれ剣を構えて斬りかかろうとしていたのだ。

 その瞬間。

 なにかが、通り過ぎた。
 ライルと少年の間をなにかが通り過ぎた。

 あれは確か――。

「ッ――よけろっ!」

 ライルは思い至ったと同時に叫んでいた。

「え?」

 呆然と膝をついて事態に眼を丸くしていた『騎士』少年。
 それが救いとなった。

「ひっ」

 ライルの叫びに尻もちをつく形で、横合いから飛び出したソレをかわしたのだ。

「くそっ……!」

 歯噛みしながらライルが視界に捉えたその姿は――。


「てめえ……ゼオ――――ドッ!」


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