オンラインMMO『マビノギ』をモチーフとしたオリジナル小説【メインストリーム-Generation 0-】を中心に扱っております

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

マビノギ-Generation 0- 第二章20 第三十九話



          20


 一瞬――。
 仄かに地に映る影と影が交差したと思われた瞬間、

「ゴウッ!」

 タロンは叫んでいた。

 相手はあの、ゼオード・グラシアだ。
 いかにゴウであろうとも、腕輪のハンディキャップ付きでは分が悪いに決まっている。

 だから二人が間合いを詰め、激突した今――タロンは片目を瞑って最悪の未来に備えた。
 鋼が擦れあい、焦げつきそうな音が唸る。

「せぇいっ!」

「…………」

 ゴウは強く踏み込まず、ゼオードもまた大きく踏み込んでいない。
 互いの身体が相手の切っ先に触れるか触れないかぎりぎりの位置取りで剣を重ねている。

 ゴウとゼオードは視線を交わしたまま、空間の応酬を繰り広げる。

 どちらも右利き。
 右肩寄せに立ち、腕を伸ばして片手で力と力をぶつけ合う。
 ゼオードの持つグラディウスはともかく、ゴウが手にしているのは本来両手持ちのクレイモアである。

 ライルが『最強』の渾名をもつように、同じく『快神』と呼ばれるゴウも伊達ではない。



 しかし――。

「おい……それじゃまずいだろ、ゴウ……!」

 みているタロンとしては気が気でなかった。

 剣速はほぼ同じようにみえる。
 いや、むしろ同じ速さならば強度でまさるクレイモアをもつゴウのほうが有利ですらある。

 だが、それではダメなのだ。

「ちい」

「…………」

 ゴウもそれに気付いている。

 腕力ではゴウが上。
 そして速度がほぼ同等。

 差は――剣の長さだ。
 単純に剣で勝負をする場合、リーチが長い方が当然有利だ。

 しかし片手持ちでそれをするとなると事情がまた異なってくる。
 片手持ちで重要となってくるのは腕力よりもその手首の強さだ。手首の返しが早ければ早いほど、切り返しがされればされるほどにその差は如実に表れてくる。
 そしてその手首への負担が、ゴウの剣ではゼオードの比ではない。

 元来の役割どおり両手持ちに戻してしまえば済む話だが、ゼオードがそんな隙を逃すはずもない。
 せめて魔法で距離をとれれば手立てもあるが、魔法を不得手としているゴウがこの状況を打開する方法はないに等しい。
 ゼオードもそれを見越してあえて魔法を使わない戦法をとっているのだろう。

「…………」

 もちろんタロンが踏み込むこともできない。
 剣の動きを追うので精一杯のタロンに、こんなレベルの戦いへ割り込むことなどできようはずもなかった。

 ハンデを背負い、さらに戦い方も誤ってしまったゴウ。
 どうやら予想していた最悪の未来がやってきそうだった。
 ゴウがやられて、自分もまた同じように為すすべなくやられてしまう――。

 しかし。
 そんなタロンの懸念は、どうやらムダだったようだ。

「ぬぇえええええええいいッ!」

「…………なに」

 打ち下ろされたゴウのクレイモアと掬い上げられたゼオードのグラディウスが重なった刹那。

 ゴウが前へ、飛び出した。
 返すゼオードの剣は――間に合わない。

 なぜなら打ち下ろしと同時に、ゴウは剣を手放していたからだ。
 きっちりと受け止めたとはいえ、すっぽ抜けのような予想しえない手ごたえに、ゼオードの反応がほんのわずかに遅れる。
 間髪逃さず、ゴウは右手を大きくゼオードに向かって差し伸ばし、その破れた上着を強引に引っつかんだ。
 そのまま力任せに前へと踏み込み、ゼオードの身体を大きく突き飛ばす。

「そら、ゆくぞぉ――――!」

 巨体からおよそ想像できないほどの速さで間合いを詰め、ゴウは両の拳でゼオードを乱打した。

「どおしたどおしたどおしたどおしたどおしたぁ――――――ッ!」

 眉間、側頭、肩と立て続けにヒットするゴウの拳。

「こォれが…………」

 たまらず両腕を交差させて顔を隠すゼオード。

「ゼオード・グラシアかぁぁぁぁああああああああ!」

 それを待っていたとばかりにゴウはその手首を掻き掴み、地面へと引き倒した。木の葉が土砂とともに宙へ舞う。

「ッがァッ……」

 肩口の傷から血が吹き出し、ゼオードは表情を歪ませた。
 それをみて、タロンも渋面を浮かべる。

「…………うへえ」

 さすが、というかなんとかいうか。
 つい先ほどまでしていた心配が馬鹿らしく思える。

 ゴウ・バーグリーはティルコネイル剣士学校において、比類なきほどの実力者だ。座学の成績が影響さえしなければ、クラス〈Ⅰ〉などとうの昔に卒業できていてもおかしくなかった。
 ライルやカトレアといった才気溢れる連中が現れるまでは剣の実力では肩を並べる者などいなかった。タロンもクラス〈Ⅰ〉へ昇格してからというもの、手合わせや稽古で何度やられたことかわからない。

 体術も織り交ぜて戦うスタイルこそ、ゴウの真骨頂なのだ。

「ふん。だらしがないのうおぬし。ワシはハンデ付きじゃぞ」

 ゼオードを見おろしたまま、ゴウは鼻息も荒く放り捨てた剣へと歩み寄った。
 てこの原理でクレイモアを蹴り上げて肩へ担ぐと、ゴウは胡乱げな表情で倒れたままのゼオードを睥睨した。

 その気配には一切の油断がみられない。
 自然体でいてもなお気迫が満ち満ちている。

 やおら、跳ね上がるように身体をたわめて斬り込んできたゼオードに対してもゆうゆうと反応する。

 ゼオードは速い。
 いずれの一撃もタロンでは動きさえできるかわからないほどの鋭さなのだが、それさえゴウは退屈な授業でもうけているかのような瞳でいなしてゆく。
 ゴウもまた速いのだ。
 普段の陽気さやその巨体から、ゴウはのんびりとした野生のクマを思わせる雰囲気をもっているが、実際の彼の剣技においては、もっとも比重を置かれているのは速さだった。

 巨漢といえば力というイメージどおりではなく、速さを追求して鍛え上げた身体。
 これを見誤れば――。

「どっ……せぇ――いっ!」

 ゼオードの身体が、ゴウの強烈な掌底を受けて吹っ飛ぶ。

 ――アレは入った。

 タロンは確信する。
 みぞおちだ。
 ゴウの岩石のような手でアレをくらえばまず立てない。

「くっ……くくく」

 いや――立てないはずなのだが。
 そもそもゼオードは倒れなかった。

「くくく……認めよう、ゴウ・バーグリー」

 身体をくの字に折ったまま、ゆっくりと顔だけを持ち上げるゼオード。
 同時に――。

「ぬう……?」

 その身体にまとわりつくように、無数の氷の棘が浮遊してゆく。
 およそ数えるのが困難なほどの氷結弾の数。

 果たしていつから詠唱を重ねていたのか?

 みているタロンでさえ気付けなかったのは、ゼオードが詠唱待機させていたのがごく低空の足元だったからに他ならない。

「貴様は強い。だが、オレの敵としては……物足りん!」

 持ち上げた拳の指先をかるく弾くようにゴウへと向けて。
 その合図で、多量の氷の群れは襲いかかった。

「ぐおおおお…………!」

 これをゴウは懸命にクレイモアで弾くも、なにしろ一つや二つではないのだ。
 ほとんど嵐のような猛攻を、剣一本で防げるはずもない。またたく間に肩を、腕を、身体中あますところなく貫かれてゆく。

「さて、先ほどの拳――返すぞ」

 間合いを詰め、ゼオードは剣を放り捨てた。

 一発。
 二発。
 三発と。

 ひるんだゴウの顔面に次々と拳をぶちあててゆく。
 それはつい先ほどまでゴウがしていた乱打の再現だ。

「ぬ、ぐ、うぅ……!」

「――ふぅっ!」

 仕上げとばかりに両手を重ねて、みぞおちへの掌底を放ち――受けたゴウの巨躯が大きく後ずさりし、ぐらりと揺れた。

「ゴウ!」

 タロンが駆け寄ろうと足を浮かせる。
 すると、持ち上げられたゴウの大きな掌がタロンのほうへと向けられた。

「あー……まいったのう、これは」

 口調こそなんでもないが、言葉の端々からは疲労の吐息がもれている。
 無理もない。
 あれだけ動いたのだ。ハンデを背負っている以上、スタミナもほとんど残っていないはずだ。

「タロンやい。もうちぃと離れとけ。……どうやらこやつを倒すにはアレを使うほかなさそうじゃ」

「…………」

 ゼオードが剣を蹴り上げて掴み、ゴウへと近づいてゆく。
 だがそんなことは問題ではない。

「アレって……まさか……」

 ゴウは使うといった。
 演習で、しかも腕輪という消耗のハンデ付きでアレを使うというのだ。

「無茶だ! 今の体力で、そんな大技を繰り出せるわけがない!」

 そうだ。
 腕輪がなければいい。
 相手がゼオードである以上、全力を出し切らねば勝算がみえないのも無理はない。むしろ、現状でよく戦ったとすらいえるだろう。

 だが、これからゴウがやろうとしていることは自殺行為に近い。

「やめろよっ! ……下手したらおまえ……死ぬぞ……?」

 タロンの呟くようなかすれ声をにやりと笑って聞き届けたゴウは、手にしたクレイモアを肩に担ぎ上げた。

「ゼオードよ、ワシも認めたる。おぬしも確かに強いわい。さっきの拳もなかなかに堪えたわい」

「…………」

 ゴウの気配になにかを感じたのか、ゼオードは歩みを止めた。

 既に満身創意にしかみえないゴウは、足を大きく開いて脇構えをとる。

「敬意を表して、ワシも全力で相手をするわい。ワシがなんと呼ばれておるか、知っとるかのう――――」

 震える。
 空気が、震える。
 ゴウの身体を中心に、周囲の空気がわんわんと鳴くような耳鳴りを起こす。

 マナの吸収だ。
 人の身体に平等に宿っているマナは、大きく欠乏したとき――ちょうど乱れた呼吸を整えるのに大量の空気を必要とするように、周囲に漂うマナをかき集めようと身体が要求する。

 この空気の震えは周囲からマナが失われていく大気のわななきだ。
 タロンは両手で目を覆おうとする。

 無茶だ。
 できるはずがない。
 腕輪のハンデがある状態で一撃必殺をねらうなど、出す前に自分がつぶれてしまうのがオチだ。

「くぅらぇぇぇぇいっ! これがワシの……レイナルド流剣術・我流『快神』じゃぁぁぁぁ――――!」

 ゼオードが反応する。
 ゴウの声にではなく、その肩に担ぐクレイモアが帯びる青白いマナの量にだ。

 だが、もう遅い。
 その距離ではもう、遅い。

「空でも飛べん限り避けれんわぁッ! た・た・き・潰れやぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!」

「……しまッ――――――」

 聞き取れない。
 ゼオードがなにを言ったのかも、なにもかも。

 狂ったような轟音につんざかれてしまった耳では、ただひたすらにきぃんとしか聞こえない。

 覆うべきは目ではなく耳だった。
 タロンはそんな後悔とともに、ゆっくりと目を開く。
 するとそこには。

「ほ、本当に……やりやがったのかよぉ…………」

 穴だ。

 距離にして、数メートル先まで細長い、なにかが通り抜けたようなくぼんだ穴。
 古の戦争時代に存在していたとされる伝説の巨大生物が通り抜けたあとのように、木々はなぎ倒され、茂みすら存在していない。
 恐るべきはこれが演習用の剣で放たれた威力だということだ。

 ゴウの渾名は、なにもその豪快で裏表ない性格からつけられたわけではない。
 すべてを一撃で粉砕し、灰燼に帰すほどの大技『快神』あっての由来なのだ。
 そして、当のゴウは――。

「ゴウ……! おい、ゴウ……!」

 剣を地面に叩きつけた姿勢のまま身動き一つしないゴウに、駆け寄ったタロンはどうしていいかわからなかった。

 それでもなんとか混乱しながら、ゴウの身体に治癒光を当て始める。
 身体はぼろぼろだった。
 肉厚的だった拳も急激に痩せ果てたようにしぼみ、かろうじて吐き出されている呼吸もたえだえだ。

「バカ野郎…………」

 ゴウはレイナルドに師事して何年になるんだったか。

 何事にも道が一つではないように、ティルコネイル剣士学校でも、剣士として基本の型を授けてもらえば、そこからは個人個人の仕上げとなる。
 教わった剣とはあくまでその師の剣であり、体格や才覚によってその使い方も大きく異なってくるからだ。
 仕上げのなかで己にもっとも適した剣の使い方をみつけて広げてゆくことで初めて本物の剣士となることができるのだ。

 そしてゴウは体現した。
 それこそが一撃必殺の『快神』。

 たとえば素振りを千回しろと言われれば、すぐにはできずとも毎日練習を繰り返していくことでいつかはできるようになるかもしれない。
 ではその千回分の力を、たったの一度で使い切れと言われればどうだろうか。

 これこそがゴウの剣。
 すべてを圧殺する力のみの剣。
 もちろん腕輪のようなハンデを背負ってだせるようなシロモノではない。

 充分な体力。
 満ち満ちた魔法力。
 意地する強心力。

 それらのすべてが揃って始めて繰り出せるほどの大技だった。

「やっぱりすごいよ、おまえは……」

 タロンの呟きに反応したのか、ゴウの口がわずかに動いた。

「…………ぃ」

「え?」

 聞き取れなかった。
 いまだに耳鳴りの残っている状態ではとてもじゃないが拾いきれない。
 そして耳を寄せたタロンに届いたのは、


「逃げぃ――――タロン」


 顔をあげたタロン。

 対面するゴウの顔は青白く――しかしその背中から、赤い飛沫があがった。



コメントの投稿

 管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバック URL

Copyright © はにかみながらまびのぐ. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。