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マビノギ-Generation 0- 第二章21 第四十話



          21


 白刃が空を切る。
 鉄と鉄が打ち合う鋭い音が辺りに響いた。

 戦っているのは男と女。但し、一対一ではない。

「くそ……しつけえぞ、てめぇらっ」

「黙れっ。逃げてばかりいて恥ずかしくないのか。いい加減、我らと勝負しろ」

「お覚悟なさいませ、ライル・ラングル様」

 ルッカは丁寧な物言いながらもその剣筋は姉同様に苛烈だ。
 手にしたフルートショートソードの軽快さもあいまって動きは素早かったが、やや力任せなのか、ところどころで隙が窺える。

 しかしそこをリッカが間髪いれずに攻撃してくるために、ライルは舌を巻いていた。
 むしろ、互いの存在を見越してのこういう戦い方なのだろうと判断する。

 数合打ち合って、木を背にしたライルはそこへ斬りこんできたルッカを跳躍して飛びこした。

 すかされたルッカの剣が木の幹に突き刺さる。

「なっ……しまっ……」

 剣が抜けないことにあせったのか、ルッカは腕輪を隠すように胸元に包み込んだ。
 ルッカの腕輪は赤。
 パートナーの生命線である『姫⑮』の腕輪を守るように身構えた。



 しかし、そこには既にライルの姿はない。

「待てっ! 勝負しろライル・ラングル!」

 叫ぶリッカ。

 ライルはそれを無視して全力で走り抜ける。
 彼は心から冗談じゃねえ、と叫びたい気持ちだった。

 散々だった。
 ゼオードの凶行を前に何もできなかったこと。そしてそれを止めようと追う姿勢をみせれば、今度はリッカとルッカに追い掛け回される始末だ。おまけにいまだ自分のパートナーである『騎士④』が誰なのかすらわかっていない。

 もう散々で、うんざりで、思わず膝を折りそうになった。
 ライルは一足飛びで目の前の茂みを跳び越すと、近くの木陰に身を寄せて息を吐いた。

「……勘弁してくれよ、まじで」

 肩で息をして腕輪のハンデを実感しながら、思考をめぐらせる。

 あとどれほどの人間が残っているのだろうか。
 演習二日目にしてライルが出会った人間のほとんどは二人組だった。それはつまり演習はもう終盤に差し掛かっているということだ。三日という期限のなかで、パートナーと合流できていないのは自分だけかもしれないという思いがライルの心を焦らせていた。

 クラス〈Ⅰ〉で参加した一〇人。
 ソフィアとナキシン、サイスとハーメッドはもう失格となっている。
 そしてゴウもパートナーではないことは確認済みだ。

 残るは四人。リオンとタロン、そしてアリアとカトレアだ。

「……アリア、か」

 ライルは顔をあげて呟いた。
 こんなときでも。いや、こんなときだからこそ真っ先に思い浮かぶのは彼女の顔だ。そしてゼオードの凶行と彼女の姿を重ねて、ライルは頭を抱えたくなった。

 もしもアリアが、あんな目にあったとしたら。そのときおれは果たしてあいつを許せるのだろうか、と。

 ライルがそんな思考を重ねて、かぶりを振った瞬間、

「――やべっ……!」

 ソレに気づいて咄嗟に身を起こす。

 が、間に合わない。
 刹那、背後から飛び掛ったリッカがライルの首と右腕を、両足にルッカが自分の足をからめてきて一気に引き倒された。

 ライルは残った左腕を動かそうとするが、そこへ剣先が突きつけられてしまい、身動きがとれなくなった。
 左手首――『姫④』へ突きつけられた切っ先をみて、ライルは己の失態を呪い、同時に自嘲の笑みを浮かべた。

「……どうした。やれよ、いまなら間違いなくおまえらの勝ちだ。油断した、なんて言い訳はしねえ」

 実際には間違いなく油断だったのだが、それすらも結局は演習中に気を散らせた自分のミスだ。
 だが自嘲するライルの耳に届いたのは意外な言葉だった。

「ふざけるな」

 リッカは細めの瞳をさらに細めてライルの腕をねじあげた。

「あいででででっ……ふ、ふざけんなってのはこっちの台詞だぜ……やるならひと思いにやりやがれっ」

 ふと、横倒しのまま目があったルッカにそう怒鳴ってみせるが、

「…………」

 ルッカは口を噤んだままだ。

「私たちの目的は不意打ちなどではない」

 リッカが言う。

「私たちの目的は勝負だ。こうなった以上、逃げずに勝負してもらうぞ、ライル・ラングル」

「おまえらは……なんだってそんなに勝負勝負ってこだわるんだよ……あいででで」

「当たり前だ。私たちは貴様と勝負をするために編入してきたのだからな」

 若干緩められたのか、ライルの右腕から痛みが薄れる。だが抜け出せるほどではなかった。

「へ、編入……?」

「そうだ。私たち姉妹はもともとダンバートン剣士学校の生徒だった」

「なるほどな……だからおまえらはこの演習に参加できたってわけかよ……!」

「私もルッカも姉妹校である向こうでは常に上位の成績を修めてきた。私たち二人で勝てぬものなどいなかった」

 リッカの言葉は昔を懐かしむようなものではない。むしろ声量がどんどん鋭いものとなっていく。

「そんな折に貴様の噂を聞いた。名門と名が売れ出したティルコネイル剣士学校には『最強』の男がいると。私たちはその男と勝負がしたくなった」

「私もリッカお姉さまも決して遊びなどではございませぬ。ライル・ラングル様、どうかご理解くださいまし」

 姉の言葉の次いでルッカが言葉を発した。生き写しのような容貌の彼女たちは、口調も雰囲気もまるで違う。
 ライルは視線を巡らせる。そして背後にのしかかるリッカのほうへと首を傾けて、

「……勝負はできねえ」

 はっきりと告げた。
 その言葉にリッカが眦を決する。

「貴様――!」

「無理なんだ」

 と。ライルは言葉を次いだ。

「無理だと? なにが無理なものかっ。貴様の『最強』といわれる剣技をみせてみろといっているっ。簡単なことだろう!」

 ぐっとねじあげた腕に力をこめてリッカが言う。
 だがライルは表情を変えない。

「最強……最強か。誰がいいだしたんだろうなそれ」

 哀しげに瞳を細める。

「おれは自分が最強だなんて思ったことは一度もねえ。むしろ逆だ。おれはきっと……強くなんかねえんだ」

「……なにをいっている。現実として貴様は昨年の剣技演習においても優勝しているというではないか」

「それはあくまでいろんな運もからんだ結果だ。おれは……おれ自身はそんなたいしたもんじゃねぇぜ。いや、おれ自身なんてもんがそもそもあったのかどうかすらわかんねえ」

「…………?」

「おれにはばあちゃんがいる。おれにとってこの世で唯一人の家族だ。だから大好きなばあちゃんのいうことは何でも聞いてきた。逆らって、約束をやぶったりしたことなんざ一度もねえ」

「……よいことではないか。ご太母殿もさぞお喜びだろうそれは」

 リッカの言葉にライルは首を振る。

「だから……だぜ。時々思うんだよ、おれはこれまで自分の意思でなんかしたことがあったのかなって……。言うこときいて、決まりごとを守って。それで本当におれはおれとして生きているのかなってな。ばあちゃんもそれをきっとわかってるんだろうな、いつも言うんだ。『しっかり自分を持て』って……約束を破ったことはねえけど、いまだにこれだけは守りきれていねえ。正直どうすりゃいいのかもわかんねえ。なあ、こんなおれのどこが最強だってんだ……くっ」

 しゃべりながらも拘束から抜け出そうとするが力が入らない。

「そんな話はどうでもいい、いまは私たちと…………」

「でもな、そんなおれでも、自分の意思ではっきり正しいってわかることだってあるんだ」

「いい加減にしろ、時間稼ぎのつもりか!」

 焦れたのか、腕を限界まで締め上げるリッカ。

「っ……勝負はできねえ!」

 ライルは歯を食いしばって叫ぶ。

「なぜだ!」

「おまえらが――女だからだっ!」

「!」

 リッカの瞳が大きく見開かれる。ルッカも同様に目を剥いて――その足にこめる力が若干緩んだ。

「たとえ俺が『姫』じゃなかったとしてもっ、男が女に本気で力をぶつけるなんてできるわけねえだろっ! 女は守るモンだって……ばあちゃんから教えられてっからなっ! これだけはおれもはっきり正しいっていえるぜっ!」

 ライルは一瞬で足を組み替えて縛めから抜け出し、背後のリッカを背負い投げの要領で振り払った。

「あばよっ! もう追ってくるんじゃねえぞっ!」

 拳をつきあげて走り去るライル。

「…………」

 リッカは放られた姿勢のまま起き上がろうとしなかった。
 対してすぐさま起き上がったルッカはライルと姉とを顔を巡らして叫んだ。

「リッカお姉さま! はやく追わなくては……」

 しかしリッカは動かない。
 駆け寄るルッカ。

「リッカ、お姉さま……?」

 心配そうに覗き込んだルッカの耳に届いたのは、聞いたこともない弱々しい姉の声だった。

「…………女、だから…………」



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